はりねずみが眠るとき

昼寝をしながら本を読み、ビールを空けて料理する日々
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『朝ごはんぬき?』

田辺聖子を、初めて読んだ。
『朝ごはんぬき?』(新潮文庫)1976年に出版された小説だ。
裏表紙の紹介文に「ハイ・ミス」という言葉が使われていることからも、最近かかれたものではないと判る。主人公はそのハイ・ミス。31歳で未婚の明田マリ子。ハイ・ミスという言葉も聞かなくなったが、31歳をハイ・ミスと呼ぶこと自体、今ではあり得ないんじゃないか、などと思いつつ読み始めたのだが、ページを捲る指は止まらなかった。ユーモア小説と言われるだけのことはあり、おもしろいのだ。

失恋して会社を辞めたマリ子は、女流作家秋本えりか(本名、土井ヨシ乃)の家で住み込みで働くことになった。お手伝い兼、秘書兼、イヌの散歩係だ。その家族の様子が、何ともおもしろい。
売れっ子作家のえりかは、締め切りぎりぎりにならないと原稿をかきはじめず、編集者からの電話には「いないと、言って!」と怒鳴る。えりかの夫は、そんな妻にも慣れていて、常にのんびりと傍観。放って熟睡し、マリ子に「鉄人・ねむり犀(さい)」とあだ名をつけられる。女子高生の娘、さゆりちゃんは、反抗はしないが大人とは関わりたくないと思っている様子。カップヌードル党。3人の家族は、一緒に食事をしない。マリ子は、そんな3人に何やら納得しない思いを抱きつつも、自分の仕事をきちんとこなすのだ。
以下、ねむり犀、土井氏が、帰りが遅くなったさゆりちゃんを叱るシーン。

「困った子やな。そう外食ばかりしてはあかん。子供はちゃんと、家でモノをたべる」土井氏は嘆息して「何を食べた」と好奇心にみちて聞いた。
この人、食べ物の話をするときは、とみに生き生きする。
「豚珍軒のごもく焼きそば …… 」
と、さゆりちゃんは悪事を働いたごとく、うなだれる。
「ごもく焼きそばか、あれは量が多いばかりでまずい。豚珍軒はラーメンのおつゆがうまいのです。塩味ラーメン食べればよかったのに、なんで、まずうて高うて量ばかり多いごもく焼きそばなんか、食べるのや!」
さゆりちゃんは泣きべそをかいて、もじもじする。
「もし焼きそばなら、向かいの天珍楼にすればよかったのに!」

ここまで的を外し説教できる父親って、じつにすごいと思ってしまった。
そして、蒸発(?)した土井氏を迎えた、えりか氏の台詞がまた、すごい。

「夫というものは、家に帰ればいつもいるもの、妻にさからわず、妻の邪魔をせず、要るときだけ、前へ出てくるもの、勝手にかげで自由行動することは許さん! 離婚の、蒸発の、とそういう自由も許さん …… 」

こんな家族、あり得ないと呆れつつも、読みながら、まるで幸せのお裾分けを貰ったみたいにふくふくとした気分になってくるのは何故なのだろうか。
共に食事をするのも大切だけど、それだけが家族じゃないんだよね。

わりと今風の表紙、と思ったら、新装版で4月に発売されたばかり。
「ハイ・ミスというものは、意地が悪いものだ。意地が悪くなくてハイ・ミス商売張っていけるか」というマリ子の恋愛話も、もちろん楽しめます。
帯には、西加奈子の言葉がありました。
「田辺さんの手にかかると、日常はこんなにも滋味深い」
同時発売の『夕ごはんたべた?』も、ぜひ読みたいなぁ。

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HN:
水月さえ
性別:
女性
自己紹介:
本を読むのが好き。昼寝が好き。ドライブが好き。陶器屋や雑貨屋巡りが好き。アジアン雑貨ならなお好き。ビールはカールスバーグの生がいちばん好き。そして、スペインを旅して以来、スペイン大好き。何をするにも、のんびりゆっくりが、好き。
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