はりねずみが眠るとき

昼寝をしながら本を読み、ビールを空けて料理する日々
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『ジョゼと虎と魚たち』

引き続き、田辺聖子を読んでいる。
短編集『ジョゼと虎と魚たち』(角川文庫)だ。
もう十年以上前にことになるが『ジョゼと虎と魚たち』が映画化された際、レンタルして観た印象が強烈で、そのとき、田辺聖子をいつか読もうと思ったのだ。それから、ひと昔というほどの時間は過ぎたが、実現することができた。『朝ごはんぬき?』が新装版で復刻し、本屋に平積みされていて偶然手に取ることとなったのだが、いつか読もうと思っていたからこその偶然である。
『ジョゼ』は、文庫本で25ページ程度の短編だ。映画とは、ストーリーもだいぶ違っていたが、下肢が麻痺して車椅子に乗っているジョゼと恒夫のラブストーリーだということは、変わらない。

祖母とふたり、生活保護を受け暮らしていたジョゼは、ジョゼの言うところの「悪意の気配」によって、座っていた車椅子を押され、下り坂を転げ落ちた。それを助けたのが大学生の恒夫だった。この小説の魅力は、何と言ってもジョゼのキャラクターである。以下本文から。

「アタイなあ、これから自分の名前、ジョゼにする」
といったことがあった。
「なんでクミがジョゼになるねん」
恒夫は何が何だか分からぬ顔付きでいる。
「理由なんかない。けど、アタイはジョゼいうたほうがぴったし、やねん。
クミいう名前、放下(ほか)すわ」
「そんな簡単に名前変えられるかいな。役所『ふん』言いよらへんテ」
「役所なんかどうでもええ。アタイが自分でそうすると思てるだけでええねん。あんた、アタイのこと、ジョゼ、呼ばな返事せえへんよ。これから」

ジョゼは、他人とつるまず、障害者の集まりにも参加しない。恒夫にはいつも高飛車な態度で、車椅子に乗せてもらうのが遅れたりすると、容赦なく文句を言う。自分を捨てた父親のことを優しい人だと思って疑わず、恒夫が悪く言おうものなら、ものすごい剣幕で怒る。ジョゼは、虎が怖い。嬉しすぎると不機嫌になる。そして、魚たちを見るのが好きだ。以下本文から。

(アタイたちは死んでる。「死んだモン」になってる)
死んだモン、というのは屍体(したい)のことである。魚のような恒夫とジョゼの姿に、ジョゼは深い満足のためいきを洩らす。恒夫はいつジョゼから去るか分からないが、傍にいる限りは幸福で、それでいいとジョゼは思う。そしてジョゼは幸福を考えるとき、それは死と同義語に思える。完全無欠な幸福は、死そのものだった。

水族館で泳ぐ魚たち。屍体となった自分。そして、幸福。
どれも穏やかで、思い浮かべれば、気持ちがしんと静まっていく。

『夕ごはんたべた?』も、一緒に購入しました。分厚い文庫です。
『ジョゼと虎と魚たち』には、短編9編が収められています。
映画では、池脇千鶴がジョゼを好演していました。

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HN:
水月さえ
性別:
女性
自己紹介:
本を読むのが好き。昼寝が好き。ドライブが好き。陶器屋や雑貨屋巡りが好き。アジアン雑貨ならなお好き。ビールはカールスバーグの生がいちばん好き。そして、スペインを旅して以来、スペイン大好き。何をするにも、のんびりゆっくりが、好き。
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