はりねずみが眠るとき

昼寝をしながら本を読み、ビールを空けて料理する日々
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『ちょうちんそで』

江國香織『ちょうちんそで』(新潮文庫)を読んだ。
過去に傷を抱える五十代の女性、雛子の物語だ。雛子は、高齢者向きマンションにひとりで暮らし「架空の妹」と日々会話する。以下本文から。

「六番街の入口のところに、おもちゃ屋さんがあったでしょう? 一部分だけタバコ屋さんの」
雛子は言った。
「私たち、よくあそこにタバコを買いに行かされたわね」
姉妹の父親は物書きで、ヘヴィ・スモーカーだった。家で仕事をしていたので、タバコが切れると娘のどちらかを呼んで「お役目、果たすか?」と訊いた。そして、娘がタバコを買って帰ると「お役目、ご苦労」と言った。
「行かされた」
架空の妹はこたえる。
「委任状を持って」と。
「委任状! そうだったわね。たしかに持たされた」
思いだし、可笑しくなって、雛子は笑う。几帳面だった父は、子供にタバコは売れない、と店の人が言ったときのために、と、その都度委任状を作成した。

雛子の妹は、実際には行方不明だ。雛子の居場所はすぐに判るはずなのに、妹は連絡をしてこない。だから雛子は、妹を探すことをとうに止めていた。
家族を捨て、かけおちし、その男も失った雛子は今、元夫に養われる形で高齢者向けマンションで暮らしている。子ども達も自分を恨んでいるのだろうと思うと会うのも怖い。想像を絶するほどの孤独。という言葉を思い浮かべたが、解説の綿矢りさはかいている。
「雛子はいつも一人だけど辛い記憶につながるはずの過去を、大切に慈しみ愛してきたおかげで、どんなときも孤独ではない」
愛する妹は、自らの意思で離れていった。捨てられた、ということもできる。そのことに傷つきながらも、妹と過ごした記憶がまた雛子を救っているのだ。

傷ついた記憶を忘れ去ることだけが、その過去を乗り越える道、という訳ではないのかも知れない。

物語は、様々な人々の視点から描かれていました。
雛子、その息子ふたり、息子の恋人、同じマンションに住む2組の夫婦、
遠く離れた外国に住む小学生の女の子、の目線で魅力的に語られていきます。
(ブルーベリーのお酢を飲みながら、読みました)

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HN:
水月さえ
性別:
女性
自己紹介:
本を読むのが好き。昼寝が好き。ドライブが好き。陶器屋や雑貨屋巡りが好き。アジアン雑貨ならなお好き。ビールはカールスバーグの生がいちばん好き。そして、スペインを旅して以来、スペイン大好き。何をするにも、のんびりゆっくりが、好き。
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