はりねずみが眠るとき

昼寝をしながら本を読み、ビールを空けて料理する日々
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『うさぎパン』

日々の生活が、いっぱいいっぱいになった時、地続きの小説が読みたくなる。
経理の仕事と、毎日の生活と、遊び、そして、イレギュラーな出来事。自分ではムリのない範囲でスケジュールを組んでいるつもりでも、このくらいはだいじょうぶと思っていたことが思いもよらず膨らみ、自分を追い詰めることが、ままある。自分の不器用さに落ち込み、逃げ場を探す。その逃げ場は、いつも地続きの小説だ。地続きと勝手に呼んでいるのは、つまり繋がっている場所。いつもは降りない駅で降りたら、そこには小説そのままの生活が、不思議でもなんでもなくある。そんな身近なストーリーのことだ。

瀧羽麻子『うさぎパン』(幻冬舎文庫)は、疲れきって手にとった一冊。
帯の「ほのぼのしてあったか~い毎日」を読み、初めて読む作家なのに、何も考えずレジに進み、購入していた。

主人公は、高校1年の優子。父親は単身赴任中で、血の繋がらない母親とふたりで暮らすが、ステレオタイプな関係ではなく、ごく普通に仲がいい。優子は、女子だけだった小中学校に別れを告げ、地元の共学校に入学し、気になる男子、富田くんとパン屋巡りを始める。クラスの自己紹介をきっかけに、仲よくなったふたりの会話が微笑ましい。以下、本文から。

「パンが好きってほんとだったんだ」
少し意外な気がした。あの気まずい沈黙を破るために、話を合わせてくれたのだとばかり思っていた。
「自己紹介で嘘ついたらだめでしょう」富田くんは屈託なく笑う。
「じゃあさ、バゲットとかくるみパンとか好き?」
「好き、大好き」勢い込んで言うと、
「パンが好きってほんとだったんだー」
わたしの口調をまねて、そのままくりかえす。思わずふきだしてしまった。
「自己紹介で嘘はちょっと」わたしはすっかりうちとけていた。

読み終えて、思い出した。
これだけ歳をとった今だって、自分が、どれだけ小さなことに思い悩んで暮らしているのか。どれだけ小さな毎日を、大切にしているのか。

ところがなんと、小さなファンタジー要素が含まれる物語でした。
表紙をじっと見ると、ファンタジックな一面をうかがわせる雰囲気も。
収録された書下ろし短編『はちみつ』も、同じ街での物語です。
優子の家庭教師で理系大学院生の、美和ちゃんが登場します。

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HN:
水月さえ
性別:
女性
自己紹介:
本を読むのが好き。昼寝が好き。ドライブが好き。陶器屋や雑貨屋巡りが好き。アジアン雑貨ならなお好き。ビールはカールスバーグの生がいちばん好き。そして、スペインを旅して以来、スペイン大好き。何をするにも、のんびりゆっくりが、好き。
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