はりねずみが眠るとき

昼寝をしながら本を読み、ビールを空けて料理する日々
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片思いが実った途端

「えっ? フジテレビ、観られないの?」
越して来て15年。何度、驚かれたことか。
「そうだよ。山梨には、フジテレビないからね」
まあ、これは事実である。山梨には、フジテレビ系列のテレビ局は存在しない。だが、大抵の家では、フジテレビが映る。ケーブルテレビの配線が届いていれば、山梨には存在しないフジテレビもテレ朝も、テレビ東京だって、ちゃあんと観られるのだ。
だが、田舎な我が家には、その配線は届いていなかった。何度か交渉したが、この15年間、ケーブルテレビが振り向いてくれる気配すら感じなかった。
さて、ところが。先週、ようやく配線工事が終わったとの報告。長い長いフジテレビへの片思いも、成就の時を迎えたかに見える事件である。
しかし、時すでに遅し。フジテレビが観られないと嘆いていた子ども達も県外に出て行き、見たいドラマはオンデマンドで観られる時代へと移行している。
長い片思いで気持ちが冷めただけなら、いざ知らず、状況も大きく変化しているのだ。今は冷静に「どうしようかな」と、加入を逡巡している。逡巡できる幸せを、しばらく味わうのもよかろうと、15年の月日を、振り返っている。

不意に思い出したのは、子どもの頃に何かで読んだ童話の記憶だ。
悪事を働いた魔法使いが、ビンに閉じ込められ、海に流されてしまう。最初の百年は、助けてくれた人に、金貨をたんまり出してやろうと考えていた。だが、助けられることはなかった。次の百年は、どんな願いでも叶えてやろうと待っていた。だが、手は差し伸べられなかった。そして、次の百年目、ビンの蓋を開けた男がいた。
「次の百年、俺が何を考えて、ビンのなかにいたと思う?」
魔法使いをビンから出した男は、期待に胸を膨らませる。だが、返ってきたのは意外な言葉だった。
「殺してやろうと、決めていたのさ」
その後、男が殺されたのか、知恵を絞って助かったのかは、記憶にはない。

時と共に、気持ちは変わる。状況も変わっていく。
片思いが実った途端、すっと気持ちが冷めることだって、ままあるのだ。

山を見上げて、そのふもと、小さなことに一喜一憂している、
小さな小さな人間を、つまりは自分を思います。
我が家の前から見た、朝焼けに染まる、南アルプスは鳳凰三山。

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HN:
水月さえ
性別:
女性
自己紹介:
本を読むのが好き。昼寝が好き。ドライブが好き。陶器屋や雑貨屋巡りが好き。アジアン雑貨ならなお好き。ビールはカールスバーグの生がいちばん好き。そして、スペインを旅して以来、スペイン大好き。何をするにも、のんびりゆっくりが、好き。
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