はりねずみが眠るとき

昼寝をしながら本を読み、ビールを空けて料理する日々
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小説「カフェ・ド・C」 24. 必然から生まれた偶然

大学時代の友人にメールをした。一年ぶりくらいだろうか。特に用があるわけではなかったが、急にやつのことを思い出したのだ。
開店前の準備時間、ラジオから、地域の店を紹介する3分間コーナーで、聞いたことのある声が流れた。
「看板は親子丼。小さな店だけどランチにゃ五十食は出るね。そら美味いよ」
学生時代よく飲みに通った焼き鳥屋「ひなた」の親父の声だった。
「なつかしいなぁ」それで急に、やつのことを思い出し誘った。
「たまには、ひなたの親父の顔でも見に行かないか」と。

やつ、クサカは、閉店間際、メールの返事もなしにさっそくやってきた。
「おう、いらっしゃい。久しぶり」
「元気そうだな。年賀状見たよ。女の子が生まれたんだって? 可愛いだろ」
「可愛いなんてもんじゃないよ」
クサカには、すでに娘が3人いる。
「どんどん可愛くなるから、覚悟してろ」
一瞬で一年の時間は埋められていく。
「今夜、暇?」「ひなた、行くか?」「いいねぇ」
話しはすぐにまとまった。
「あ、俺さ、今日家にケータイ忘れて来ちゃって。電話貸してくれる?」
クサカは、カウンターに十円玉を置いた。店の電話を渡すと、奥さんに夕飯はいらない、へーすけと飲みに行くと簡単に伝え、切った。
僕は何かが引っ掛かり、やつに尋ねた。
「おまえさ、メール見て来てくれたんじゃないの?」「メール?」
「今朝、ケータイにメールしたんだよ」「なんて?」
「ひなたに飲みに行こうって」「なんだよ、それ。見てねーよ」
「偶然来たのか?」「その通り」「もしかして、ラジオ聞いて?」
「ああ。親父の声聞いたら、焼き鳥食いたくなった」
「まったく、単純なのも同じってことか」
僕らはひとしきり笑い、店を閉めて「ひなた」に向かった。

同じものを聞き、同じことを考える。これは偶然ではないのかもしれない。必然から生まれた偶然とでも言おうか。時間を飛び越え、急に懐かしく思ったり、誰かに会いたくなったり。「ひなた」は今夜、そういう客でにぎわっているんじゃないかな。タイムマシンで、突然未来に送り込まれたような親父の顔が目に浮かんだ。

いつも〆には親子丼を食べてしまう。これは親父の魔法なのだろうか。

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HN:
水月さえ
性別:
女性
自己紹介:
本を読むのが好き。昼寝が好き。ドライブが好き。陶器屋や雑貨屋巡りが好き。アジアン雑貨ならなお好き。ビールはカールスバーグの生がいちばん好き。そして、スペインを旅して以来、スペイン大好き。何をするにも、のんびりゆっくりが、好き。
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