はりねずみが眠るとき
昼寝をしながら本を読み、ビールを空けて料理する日々
今年初めて珈琲
元旦の朝。夫と娘と御節を囲んで新年の挨拶をした後、珈琲を淹れた。
珈琲豆は、浅煎りになるほどミルを回す力がいる。深く焙煎すればそれだけ水分も飛ぶということだろう。中煎りのケニアの豆はそれほどの力は必要なかったが、痛めた右手で回せるだろうかと考えつつも手回しのミルで豆を挽いた。
「あれ? 痛くないや」
拍子抜けするほど順調にガリガリ音を立て、ミルの取っ手は回った。3年前に左手をやはりびっきーに引っ張られて痛めた時には、このミルで豆を挽く作業が辛かったと記憶していたが、今回はそれほど酷くないのかなと思い、いやいやと考え直す。回す右手より、抑える左手の方に力はより必要なのだ。
去年左手の甲を骨折した際に、左手でやっていたことの多さに驚いたが、また違った意味で左手の重要さに気づいた。ミルを回す主役は右手だが、抑えるサポートの左手の方が大変な思いをしていたのだ。
「いつもサポート、ありがとう」
わたしは左手に言った。そして考えた。自分の気づかないところで、わたしはどれだけのサポートを受けているのだろうかと。
夫の会社の経理をし、夫をサポートするわたし。受験生の娘の送り迎えをし、娘をサポートするわたし。だがそのわたしは、夫にも娘にも心をしっかりと支えてもらっている。他の家族にも。友人達にも。
両手で熱い珈琲を持ち、右手と左手の不思議と、支え合うということを考えた。考えつつ、ゆっくりと今年初めての珈琲を味わった。
手回しのミルと、マグカップコレクション。右手、奥のものがマイカップ。
取っ手が付いていないので、両手でしっかり持って飲んでいます。
2杯分、たっぷりと入ります。
珈琲豆は、浅煎りになるほどミルを回す力がいる。深く焙煎すればそれだけ水分も飛ぶということだろう。中煎りのケニアの豆はそれほどの力は必要なかったが、痛めた右手で回せるだろうかと考えつつも手回しのミルで豆を挽いた。
「あれ? 痛くないや」
拍子抜けするほど順調にガリガリ音を立て、ミルの取っ手は回った。3年前に左手をやはりびっきーに引っ張られて痛めた時には、このミルで豆を挽く作業が辛かったと記憶していたが、今回はそれほど酷くないのかなと思い、いやいやと考え直す。回す右手より、抑える左手の方に力はより必要なのだ。
去年左手の甲を骨折した際に、左手でやっていたことの多さに驚いたが、また違った意味で左手の重要さに気づいた。ミルを回す主役は右手だが、抑えるサポートの左手の方が大変な思いをしていたのだ。
「いつもサポート、ありがとう」
わたしは左手に言った。そして考えた。自分の気づかないところで、わたしはどれだけのサポートを受けているのだろうかと。
夫の会社の経理をし、夫をサポートするわたし。受験生の娘の送り迎えをし、娘をサポートするわたし。だがそのわたしは、夫にも娘にも心をしっかりと支えてもらっている。他の家族にも。友人達にも。
両手で熱い珈琲を持ち、右手と左手の不思議と、支え合うということを考えた。考えつつ、ゆっくりと今年初めての珈琲を味わった。
手回しのミルと、マグカップコレクション。右手、奥のものがマイカップ。
取っ手が付いていないので、両手でしっかり持って飲んでいます。
2杯分、たっぷりと入ります。
煮しめの匂い
年越しはハワイにでも行ってのんびり過ごそうか。
もう10年以上前から持ち上がっている話だが、実現した試しがない。何もかも忘れて南の島でぼんやりする。素敵なプランだ。何も珍しいことではない。そうやって年越しする家族だって今やスタンダードだ。
毎年大晦日、何種類もの煮しめを煮たり、鰤を焼いたり、数の子の薄皮をむいたりと忙しくするわたしを見て、夫も言う。そんなにたいへんなら、御節作りはもう辞めたらと。買ったっていいじゃんと言ってくれる。しかし、大晦日に煮しめの匂いがして初めて年越し気分になる気がしてならない。
「お正月の匂いだね」とか「うん、うちの味だ」とか「今年は人参の味がちょっと濃いかな」とか言いながら煮しめの味見をしたり、鰤を焦がして慌てたり、つまみ食いの牽制をし合ったりしつつ大晦日を過ごす方が落ち着くのだ。
だが簡易化は確実に進んでいる。今年は息子も上の娘も帰ってこないばかりか、下の娘は受験生で2日から学校に行くと言う。5人分の御節を作る季節はもう去ったのだ。年末の大掃除も、結婚して初めて辞めた。手を痛めたわたしに夫が気を使ってくれたのか、ただ疲れただけなのか。それなりの年齢になったということなのかなとも思う。こだわりも少しは残しつつも、自分にできることを無理し過ぎずにやっていくしかないと、知るだけの年齢になったのだ。
でも来年はハワイ、行ってみるのもいいかも。などと性懲りもなく考えつつ、娘とふたり御節をお重に詰めた。
「御節って、幸せな家族の象徴っぽいよね」ぽつりと娘が言った。
あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。
わたしは御節の中でも煮しめの蓮根が大好きです。
夫は「今年は牛蒡が秀逸」とのことでした。
娘は栗きんとんばかりつまみ食いしていました。
もう10年以上前から持ち上がっている話だが、実現した試しがない。何もかも忘れて南の島でぼんやりする。素敵なプランだ。何も珍しいことではない。そうやって年越しする家族だって今やスタンダードだ。
毎年大晦日、何種類もの煮しめを煮たり、鰤を焼いたり、数の子の薄皮をむいたりと忙しくするわたしを見て、夫も言う。そんなにたいへんなら、御節作りはもう辞めたらと。買ったっていいじゃんと言ってくれる。しかし、大晦日に煮しめの匂いがして初めて年越し気分になる気がしてならない。
「お正月の匂いだね」とか「うん、うちの味だ」とか「今年は人参の味がちょっと濃いかな」とか言いながら煮しめの味見をしたり、鰤を焦がして慌てたり、つまみ食いの牽制をし合ったりしつつ大晦日を過ごす方が落ち着くのだ。
だが簡易化は確実に進んでいる。今年は息子も上の娘も帰ってこないばかりか、下の娘は受験生で2日から学校に行くと言う。5人分の御節を作る季節はもう去ったのだ。年末の大掃除も、結婚して初めて辞めた。手を痛めたわたしに夫が気を使ってくれたのか、ただ疲れただけなのか。それなりの年齢になったということなのかなとも思う。こだわりも少しは残しつつも、自分にできることを無理し過ぎずにやっていくしかないと、知るだけの年齢になったのだ。
でも来年はハワイ、行ってみるのもいいかも。などと性懲りもなく考えつつ、娘とふたり御節をお重に詰めた。
「御節って、幸せな家族の象徴っぽいよね」ぽつりと娘が言った。
あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。
わたしは御節の中でも煮しめの蓮根が大好きです。
夫は「今年は牛蒡が秀逸」とのことでした。
娘は栗きんとんばかりつまみ食いしていました。
終わりではなく
失敗した。雪掻きで右腕を痛めてしまった。びっきーに引っ張られて痛めた肩を騙し騙し使っていたのだが、それがよくなかったのか、最近、腕まで痛くなっちゃったなと思ってはいたのだ。
しかし無理しなくていいと夫に言われたにもかかわらず、雪掻きに参戦した。自分ではだいじょうぶ、大したことはないと軽視していた。
包丁を持ってもハンドルを回してもビールを飲んでも痛く、3年前に左手を痛めた時のことを思い出し落胆した。完全回復までに1年かかったのだ。しばらく薪は左手で1本ずつ運ぶしかなさそうだ。
「あーあ」声に出して嘆いてみても状況は変わらない。
「終わりよければすべてよし」と言う言葉で語るなら、あまりよくない1年だったのかなと振り返った。しかしいやいや。十分いいこともあったよと考える。考えて「まだ終わってない」答えはそこに落ち着いた。
元旦の朝もわたしは目覚めるだろう。たぶん。「完」ではなく「つづく」だ。
サラサラとした綺麗な新雪でした。
真っ白いなぁと眩しく眺め、一息ついてから、やれやれ、と思います。
坂の急カーブはうまく下れるだろうかとか、雪掻きだぁなどと。
厄介だけど、雪って白くて綺麗で憎めないやつなんだよな。
しかし無理しなくていいと夫に言われたにもかかわらず、雪掻きに参戦した。自分ではだいじょうぶ、大したことはないと軽視していた。
包丁を持ってもハンドルを回してもビールを飲んでも痛く、3年前に左手を痛めた時のことを思い出し落胆した。完全回復までに1年かかったのだ。しばらく薪は左手で1本ずつ運ぶしかなさそうだ。
「あーあ」声に出して嘆いてみても状況は変わらない。
「終わりよければすべてよし」と言う言葉で語るなら、あまりよくない1年だったのかなと振り返った。しかしいやいや。十分いいこともあったよと考える。考えて「まだ終わってない」答えはそこに落ち着いた。
元旦の朝もわたしは目覚めるだろう。たぶん。「完」ではなく「つづく」だ。
サラサラとした綺麗な新雪でした。
真っ白いなぁと眩しく眺め、一息ついてから、やれやれ、と思います。
坂の急カーブはうまく下れるだろうかとか、雪掻きだぁなどと。
厄介だけど、雪って白くて綺麗で憎めないやつなんだよな。
白菜vs白菜
父から白菜の漬物が届いた。毎年年末に山ほど漬けて送ってくれる。妹の所には車で届けたと言っていたし、近所に住む弟には寄ったついでに持たせたりするんだろう。
忘年会続きだった夫は、ちょうど仕事納めで、胃も疲れているらしいから白菜鍋にしようと決めていた。図らずも白菜尽くしとなった。大根もそうだが、軟らかく煮たものと漬物と、まるで違う野菜のように楽しめて面白い。白菜尽くしというより、白菜vs白菜という感じだ。
父の漬ける白菜は、にんにくと唐辛子が程よく効いていてジューシーで塩辛くなく、たっぷりと食べられる。一方、韓国風白菜鍋は、ダッチオーブンをうちの倉庫に置いて行った夫の友人秘伝。干し椎茸の出汁と少しの鶏がらスープの素だけの味付けで、豚バラ肉と鶏もも肉をたっぷりと入れ、好みでコチュジャンや七味唐辛子、塩でそれぞれの取り皿で好みの味にする。
結局のところ食べ過ぎた。白菜vs白菜。敗者は夫とわたしかな。
鍋の味付けは、夫はコチュジャン派、わたしは七味唐辛子派。
七味にはこだわりがあり、京都は一休堂の京七味と決めています。
忘年会続きだった夫は、ちょうど仕事納めで、胃も疲れているらしいから白菜鍋にしようと決めていた。図らずも白菜尽くしとなった。大根もそうだが、軟らかく煮たものと漬物と、まるで違う野菜のように楽しめて面白い。白菜尽くしというより、白菜vs白菜という感じだ。
父の漬ける白菜は、にんにくと唐辛子が程よく効いていてジューシーで塩辛くなく、たっぷりと食べられる。一方、韓国風白菜鍋は、ダッチオーブンをうちの倉庫に置いて行った夫の友人秘伝。干し椎茸の出汁と少しの鶏がらスープの素だけの味付けで、豚バラ肉と鶏もも肉をたっぷりと入れ、好みでコチュジャンや七味唐辛子、塩でそれぞれの取り皿で好みの味にする。
結局のところ食べ過ぎた。白菜vs白菜。敗者は夫とわたしかな。
鍋の味付けは、夫はコチュジャン派、わたしは七味唐辛子派。
七味にはこだわりがあり、京都は一休堂の京七味と決めています。
幸せ感じて
「アクセサリーも洋服もいらないから、ふたりで食事に行きたいな」
わたしは夫にクリスマスプレゼントのリクエストをしていた。そしてクリスマスも過ぎてから、自主登校する受験生の娘に話し送り迎えを1日だけ休ませてもらって、久しぶりにゆったりとふたりで食事をした。
イタリアンなのに「生中」と注文し笑ったり、鯛のカルパッチョに入っていたプチッと噛むと酸味が広がるキャビアライムなるものの存在を初めて知ったり、キッチンの入口にクチーナとイタリア語でかかれているのを見てイタリアを旅した時の話をしたり、ふたり赤ワインを1本空けながら、如何にもクリスマスらしい夜を過ごした。
「なんか、幸せだよね」わたしが言うと、夫もうなずいた。
「幸せだと思える人のところに、幸せは来るんだよ」
同じように働いて同じように家族がいて同じように食事をしていても、不満を見出し愚痴をこぼす人もいる。幸せだなぁと思う人もいる。違いはそこにあるんじゃないかと。
以前、夫に言われたことがある。娘の送り迎えを楽しそうにするわたしを見て不思議だ、自分にはできないと。しかし彼女のことで制限されることも多いが、楽しいことの方がずっと多い。日々小さなことの中にも幸せは感じられるのだ。生きていれば深く傷つくこともあるし、眠れずに過ごす夜もある。幸せだなんて、到底思えない時だってある。だからこそ、いっぱい幸せ感じて生きていきたいなと、仕上げのグラッパを飲みつつ考えた。
「もう、やめときなさい」
と、夫にグラスを取り上げられるまで、ゆっくりと考えた。
乗り過ごして松本まで行かないように、『ソロモンの偽証』(新潮社)宮部みゆきを、鞄に入れて行きました。
面白い本なので寝ないで読めると思ったからです。
しかし分厚くて重い本はたとえ面白くとも酔っ払い向きではないことが判明。
重くて開く気になれず石和温泉まで爆睡しました。起きられてよかった!
わたしは夫にクリスマスプレゼントのリクエストをしていた。そしてクリスマスも過ぎてから、自主登校する受験生の娘に話し送り迎えを1日だけ休ませてもらって、久しぶりにゆったりとふたりで食事をした。
イタリアンなのに「生中」と注文し笑ったり、鯛のカルパッチョに入っていたプチッと噛むと酸味が広がるキャビアライムなるものの存在を初めて知ったり、キッチンの入口にクチーナとイタリア語でかかれているのを見てイタリアを旅した時の話をしたり、ふたり赤ワインを1本空けながら、如何にもクリスマスらしい夜を過ごした。
「なんか、幸せだよね」わたしが言うと、夫もうなずいた。
「幸せだと思える人のところに、幸せは来るんだよ」
同じように働いて同じように家族がいて同じように食事をしていても、不満を見出し愚痴をこぼす人もいる。幸せだなぁと思う人もいる。違いはそこにあるんじゃないかと。
以前、夫に言われたことがある。娘の送り迎えを楽しそうにするわたしを見て不思議だ、自分にはできないと。しかし彼女のことで制限されることも多いが、楽しいことの方がずっと多い。日々小さなことの中にも幸せは感じられるのだ。生きていれば深く傷つくこともあるし、眠れずに過ごす夜もある。幸せだなんて、到底思えない時だってある。だからこそ、いっぱい幸せ感じて生きていきたいなと、仕上げのグラッパを飲みつつ考えた。
「もう、やめときなさい」
と、夫にグラスを取り上げられるまで、ゆっくりと考えた。
乗り過ごして松本まで行かないように、『ソロモンの偽証』(新潮社)宮部みゆきを、鞄に入れて行きました。
面白い本なので寝ないで読めると思ったからです。
しかし分厚くて重い本はたとえ面白くとも酔っ払い向きではないことが判明。
重くて開く気になれず石和温泉まで爆睡しました。起きられてよかった!
氷の厚さに南半球にいる娘を思う
犬小屋の横に置いてあるびっきーの水が毎日凍る。
その厚さも日に日に分厚くなってきた。落ち葉や松葉が舞い降りてきては、氷を飾っている。氷を捨て新しい水を入れると、びっきーは待ちかねていた様子で喉をならし飲み始める。
寒いのに冷たい水ではからだも冷えるばかりだろうと、ぬるま湯を入れたこともあった。しかし完全に彼の気を損ねたようで、酷い仕打ちだとでも言うように憮然とした顔をし、ぬるま湯の中に周りの土を鼻で掘って入れ、あっと言う間に水をダメにしてしまった。温かいお湯ではなく水に近いぬるま湯だが、びっきーにとっては水ではない他のものに思えるのだろう。何度繰り返しても同じことをするので根負けした。彼の要求通り、氷のように冷たい外の水道水を入れるしかないと悟った。
頑固だよなぁと、半ば呆れつつ思う。この分厚い氷くらいの頑固さだ。言葉が通じたら、わかってくれるのだろうか? いやいや、理由を理路整然と語り反論したりするのかもしれない。
「真夏のオーストラリアで扇風機の風に涼んでるきみの飼い主から、2月半ばに帰るってメールがあったよ」
びっきーに報告した。
娘には、水が冷たかろうがぬるかろうが気にも留めない大らかな所もあるが、びっきーの頑固さは、やはり飼い主譲りだろう。こうと決めたら譲らない頑固さも持ち合わせているのだ。この分厚い氷ほどの、そう簡単には溶けそうにない頑固さ。そうでもなければ、片言の英語を使い、ひとり海外で1年間働いたりなど、できないだろうとは思ってもみるが。
「びっきーが、首を長くして待ってるよ」
分厚い氷を眺めつつ、寒空の下、南半球にいる娘に向けてつぶやいた。2月。真夏のオーストラリアから春を連れて帰って来てくれるかな。
フィットの外気温表示では今のところの最低気温は-8℃。
氷も分厚くなる訳ですね。
道路の雪もまだ少し残っていますが、タイヤが滑るほどではありません。
その厚さも日に日に分厚くなってきた。落ち葉や松葉が舞い降りてきては、氷を飾っている。氷を捨て新しい水を入れると、びっきーは待ちかねていた様子で喉をならし飲み始める。
寒いのに冷たい水ではからだも冷えるばかりだろうと、ぬるま湯を入れたこともあった。しかし完全に彼の気を損ねたようで、酷い仕打ちだとでも言うように憮然とした顔をし、ぬるま湯の中に周りの土を鼻で掘って入れ、あっと言う間に水をダメにしてしまった。温かいお湯ではなく水に近いぬるま湯だが、びっきーにとっては水ではない他のものに思えるのだろう。何度繰り返しても同じことをするので根負けした。彼の要求通り、氷のように冷たい外の水道水を入れるしかないと悟った。
頑固だよなぁと、半ば呆れつつ思う。この分厚い氷くらいの頑固さだ。言葉が通じたら、わかってくれるのだろうか? いやいや、理由を理路整然と語り反論したりするのかもしれない。
「真夏のオーストラリアで扇風機の風に涼んでるきみの飼い主から、2月半ばに帰るってメールがあったよ」
びっきーに報告した。
娘には、水が冷たかろうがぬるかろうが気にも留めない大らかな所もあるが、びっきーの頑固さは、やはり飼い主譲りだろう。こうと決めたら譲らない頑固さも持ち合わせているのだ。この分厚い氷ほどの、そう簡単には溶けそうにない頑固さ。そうでもなければ、片言の英語を使い、ひとり海外で1年間働いたりなど、できないだろうとは思ってもみるが。
「びっきーが、首を長くして待ってるよ」
分厚い氷を眺めつつ、寒空の下、南半球にいる娘に向けてつぶやいた。2月。真夏のオーストラリアから春を連れて帰って来てくれるかな。
フィットの外気温表示では今のところの最低気温は-8℃。
氷も分厚くなる訳ですね。
道路の雪もまだ少し残っていますが、タイヤが滑るほどではありません。
湯島天神の転がらない鉛筆
受験生の娘に先月、湯島天神のお守りを買って来た。
去年、修学旅行で行った大宰府のお守りもあるし、いくつもあっても逆にご利益が薄れるような気もするし、あまり喜ばないかもしれないなと思いつつも手渡した。しかし湯島天神と聞くと、娘は意外にも嬉しそうな顔をした。
「鉛筆は売ってた?」と娘。
「あったと思うけど」と曖昧な記憶をたどり、わたし。
「鉛筆があったら、欲しいな」と娘。
聞けば、夏にふたりで観ていたアニメ『黒子のバスケ』の如何にも秀才という顔をした緑間(みどりま)が、勉強ができない火神(かがみ)に呆れ、これを転がして答えをかけと言った鉛筆が、湯島天神のものだったのだ。通称「緑間鉛筆」百発百中とはいかなくとも90%以上の正解をたたき出す。
所用で東京に行き、緑間鉛筆ではないものの湯島天神で鉛筆を買って来た。手に取ると鉛筆は六角ではなく四角で、そもそも転がらないものだった。
しかしサンタに合格を頼もうかと迷った挙句「自力で手に入れられるものを頼むのは嫌だよね」と腕時計を頼んだ彼女のことだ。湯島天神の鉛筆は、試験会場で転がされることはないだろう。それでも、彼女の頑張りに一役買ってくれるかもしれない。
神経質な理屈屋、そのくせ常にげんを担ぐ天才シューター緑間は、あまり好きになれないキャラだが「緑間、よろしく!」鉛筆に願をかけた。
女坂を登った湯島天神の入り口です。
本堂は、初詣用にお賽銭箱の増設工事中でした。
あまり風情のある風景ではありませんでしたが、だからなおさら、人ってこうして季節季節の階段を上るように生きているんだなとしみじみしました。
去年、修学旅行で行った大宰府のお守りもあるし、いくつもあっても逆にご利益が薄れるような気もするし、あまり喜ばないかもしれないなと思いつつも手渡した。しかし湯島天神と聞くと、娘は意外にも嬉しそうな顔をした。
「鉛筆は売ってた?」と娘。
「あったと思うけど」と曖昧な記憶をたどり、わたし。
「鉛筆があったら、欲しいな」と娘。
聞けば、夏にふたりで観ていたアニメ『黒子のバスケ』の如何にも秀才という顔をした緑間(みどりま)が、勉強ができない火神(かがみ)に呆れ、これを転がして答えをかけと言った鉛筆が、湯島天神のものだったのだ。通称「緑間鉛筆」百発百中とはいかなくとも90%以上の正解をたたき出す。
所用で東京に行き、緑間鉛筆ではないものの湯島天神で鉛筆を買って来た。手に取ると鉛筆は六角ではなく四角で、そもそも転がらないものだった。
しかしサンタに合格を頼もうかと迷った挙句「自力で手に入れられるものを頼むのは嫌だよね」と腕時計を頼んだ彼女のことだ。湯島天神の鉛筆は、試験会場で転がされることはないだろう。それでも、彼女の頑張りに一役買ってくれるかもしれない。
神経質な理屈屋、そのくせ常にげんを担ぐ天才シューター緑間は、あまり好きになれないキャラだが「緑間、よろしく!」鉛筆に願をかけた。
女坂を登った湯島天神の入り口です。
本堂は、初詣用にお賽銭箱の増設工事中でした。
あまり風情のある風景ではありませんでしたが、だからなおさら、人ってこうして季節季節の階段を上るように生きているんだなとしみじみしました。
ダッチオーブン・チャンス
イブの夜、夫がダッチオーブンでローストチキンを焼いた。
丸焼きではなく、骨付きもも肉でちょっとお手軽な感じだが、3時間前から塩をすり込んだり、にんにくと玉葱を炒めたものと何種類かのスパイス、調味料に漬け込んだりと、味付けは本格的だ。
わたしは、カルパッチョとトマトのブルスケッタのみ作ればいいということになり、楽ちんで準備も整った。ふたりスペイン産のシャンパン、カバで乾杯し、チキンが焼き上がるのを待つ間「ダッチオーブン、もっと活用したいね」と夫。「そうだね」とわたし。ダッチオーブン料理の本を1冊買おうかという話になった。
ダッチオーブンは夫の友人の私物で、以前バーベキューした時に買い、また来た時に使うと、そのまま家の倉庫に置いて行ったものだ。あれはいったい、何年前だろうか。ダッチオーブンはそのまま陽の目を見ず、倉庫の中で長い眠りについていた。そして今年のイブ、久しぶりに眠りから目覚めた。チキンを焼くよ、という夫の声に揺り起こされて。
料理が得意な夫の友人は、長く海外勤務が続き、ダッチオーブンを使いに山梨の田舎まで来る機会は、なかなか訪れない。
しかしダッチオーブンは手軽に使うには重すぎて、わたしが普段、料理するのには向かない。
もしかしたら、これはチャンスかも、と策略する。夫に男の料理なるものを覚えてもらい、たまにはイブの夜のように料理を分担し、楽しく楽ちんに美味しいディナーが食べられるといいな、などと考えたのだ。チャンスの神様は前髪しかないという。だから通り過ぎる前に素早くつかまなくてはならない。ダッチオーブン料理の本、さっそく買ってこようかな。
味付けに手間をかけただけあって、抜群に美味しかったです。
保存版レシピだと思いきや、「あ、かいた紙捨てちゃった」と夫。
ゴミ箱から救出しました。
丸焼きではなく、骨付きもも肉でちょっとお手軽な感じだが、3時間前から塩をすり込んだり、にんにくと玉葱を炒めたものと何種類かのスパイス、調味料に漬け込んだりと、味付けは本格的だ。
わたしは、カルパッチョとトマトのブルスケッタのみ作ればいいということになり、楽ちんで準備も整った。ふたりスペイン産のシャンパン、カバで乾杯し、チキンが焼き上がるのを待つ間「ダッチオーブン、もっと活用したいね」と夫。「そうだね」とわたし。ダッチオーブン料理の本を1冊買おうかという話になった。
ダッチオーブンは夫の友人の私物で、以前バーベキューした時に買い、また来た時に使うと、そのまま家の倉庫に置いて行ったものだ。あれはいったい、何年前だろうか。ダッチオーブンはそのまま陽の目を見ず、倉庫の中で長い眠りについていた。そして今年のイブ、久しぶりに眠りから目覚めた。チキンを焼くよ、という夫の声に揺り起こされて。
料理が得意な夫の友人は、長く海外勤務が続き、ダッチオーブンを使いに山梨の田舎まで来る機会は、なかなか訪れない。
しかしダッチオーブンは手軽に使うには重すぎて、わたしが普段、料理するのには向かない。
もしかしたら、これはチャンスかも、と策略する。夫に男の料理なるものを覚えてもらい、たまにはイブの夜のように料理を分担し、楽しく楽ちんに美味しいディナーが食べられるといいな、などと考えたのだ。チャンスの神様は前髪しかないという。だから通り過ぎる前に素早くつかまなくてはならない。ダッチオーブン料理の本、さっそく買ってこようかな。
味付けに手間をかけただけあって、抜群に美味しかったです。
保存版レシピだと思いきや、「あ、かいた紙捨てちゃった」と夫。
ゴミ箱から救出しました。
サンタは慌ただしい朝に5分だけ顔をのぞかせた
「クリスマスプレゼントは、マフラーにしてね」
今年チェスターコートを新調した夫からのリクエストを受け、ひと月ほど前に、色を合せてマフラーを購入した。そして、一応リボンをかけてもらった包みを夫に渡した。
「あ、これ。マフラー」
しかし夫は、あからさまに抗議の態度を示した。
「クリスマスプレゼントなんだからさ、イブの夜とかでしょ、普通」
だがせっかくコートに合わせて選んだマフラーなのだ。今ここにあるのに、ひと月も待つのはもったいない。
「だって、ここにあるのにクリスマスまで待つの?」
「そりゃそうだよ」
夫は頑なに袋を開けようとしない。もったいないなぁと思いつつ、袋をしまった。しかしそれから一週間後の朝、出掛けに夫が新調したコートに去年のマフラーを巻いてるのを見て、
「絶対、こないだ買ったマフラーの方が合う」わたしは主張した。
「じゃあ、持って来てよ。あと5分で出るよ」
わたしは、大急ぎでリボンをほどき、箱を開け、マフラーのタグをはずし、夫に手渡した。
「メリークリスマス!」
「まだ、クリスマスじゃないけどね」
そう言いつつも、彼も気に入った様子で、コートを買った店の店員に教わったというミラノ巻きをし洗面所の鏡で確認している。
「いいね」と夫。
「いいじゃん。ぴったり!」わたしは、褒めちぎった。
そして夫は慌ただしく出かけて行った。新しいマフラーはとても温かそうに見え、わたしも幸せな気分になった。
イブの夜のプレゼントはなかったが、その慌ただしい朝の5分の間に、たぶんわたし達夫婦にはサンタがやって来たんだろう。ちょっとファンタジックで特別な、そしてごくごく普通でもある朝の5分間だった。
ミラノ巻きと聞いて、カリフォルニアロールを連想するのは、わたしだけ?
サンタがサーフィーンする国にいる娘はどんなクリスマスを迎えたかな。
今年チェスターコートを新調した夫からのリクエストを受け、ひと月ほど前に、色を合せてマフラーを購入した。そして、一応リボンをかけてもらった包みを夫に渡した。
「あ、これ。マフラー」
しかし夫は、あからさまに抗議の態度を示した。
「クリスマスプレゼントなんだからさ、イブの夜とかでしょ、普通」
だがせっかくコートに合わせて選んだマフラーなのだ。今ここにあるのに、ひと月も待つのはもったいない。
「だって、ここにあるのにクリスマスまで待つの?」
「そりゃそうだよ」
夫は頑なに袋を開けようとしない。もったいないなぁと思いつつ、袋をしまった。しかしそれから一週間後の朝、出掛けに夫が新調したコートに去年のマフラーを巻いてるのを見て、
「絶対、こないだ買ったマフラーの方が合う」わたしは主張した。
「じゃあ、持って来てよ。あと5分で出るよ」
わたしは、大急ぎでリボンをほどき、箱を開け、マフラーのタグをはずし、夫に手渡した。
「メリークリスマス!」
「まだ、クリスマスじゃないけどね」
そう言いつつも、彼も気に入った様子で、コートを買った店の店員に教わったというミラノ巻きをし洗面所の鏡で確認している。
「いいね」と夫。
「いいじゃん。ぴったり!」わたしは、褒めちぎった。
そして夫は慌ただしく出かけて行った。新しいマフラーはとても温かそうに見え、わたしも幸せな気分になった。
イブの夜のプレゼントはなかったが、その慌ただしい朝の5分の間に、たぶんわたし達夫婦にはサンタがやって来たんだろう。ちょっとファンタジックで特別な、そしてごくごく普通でもある朝の5分間だった。
ミラノ巻きと聞いて、カリフォルニアロールを連想するのは、わたしだけ?
サンタがサーフィーンする国にいる娘はどんなクリスマスを迎えたかな。
小説「カフェ・ド・C」 22. 逡巡するサンタクロース
イブの朝一番に、友人が訪ねてきた。
「土産」と、カウンターにフランスワインを置く。
「お、サンキュ」一年ぶりに会うというのに、時間は一気に中学時代に戻っている。中学時代からやけに気が合って、十代の頃よくつるんでいたツカサだ。彼は今、フランス転勤になって4年目で、毎年この時期には帰ってくる。
「それから、遅れたけど」
出産祝いとかかれた小さな包みを置いた。
「へースケが、パパになったとはな。中煎りのタンザニアを」
彼はメニューを一瞥し、変わらぬ好みの珈琲を注文した。僕も変わらず丁寧にミルを挽き、沸かし立ての湯でドリップする。マドレーヌをおまけに付けた。
「ありがとう」と、包みを受け取る。
ツカサは珈琲をゆっくりと味わい、懐かしそうにシエナのマドレーヌを見た。
「新製品のベリー風味。タンザニアとの相性ばっちりだ」
そしてツカサは、珈琲を半分飲んだところで、いつものように聞いた。
「で、タエは、元気か?」
中学時代の同級生で、カフェ・ド・C常連のタエ。
「元気すぎるくらいだよ。元気でひとりだ」 「仕事は?」
「変わらず、フリーライターで食ってる。楽しそうだよ。大きな仕事も入ってくるようになったらしい」 「そうか」
ツカサは、軽くため息をついた。ホッとしたというようなため息。
好きなら、言ってやれよ。という言葉を、毎年のように僕は飲み込んだ。僕には言えない。中2の頃、僕はタエと付き合っていた。彼女は今と変わらず、明るく活発で気さくで、そして学年で1、2を争う美人だった。タエに告白され、僕は舞い上がった。そして特に彼女が好きだったわけでもないのに、恋をしていると勘違いした。結果、タエを傷つけた。彼女には僕のそんな気持ちはお見通しで、半年でフラれた。
「へーちゃんなんか、大っ嫌い!」
ぼろぼろ涙を流す14歳のタエの顔は、今でも忘れない。
紆余曲折あり、高校の頃も、ツカサとタエと3人でよく遊んだ。タエは恋多き十代を過ごしていたが、失恋するたびに僕らを呼び出しては遊びに行った。その間、何度かツカサがタエにフラれたのも知っている。タエはツカサと付き合おうとしなかった。それは、恐かったからなんじゃないかと今になって思う。無くしたくない場所だと、僕らを思っていてくれたからなんじゃないかって。
「そうか。変わらずひとりか」
「何度か恋に、破れながらもね」
「そうか」ツカサは、また軽くため息をつく。
「あいつ、まだヘースケのことが好きなんじゃないのか?」
「まさか!」ツカサのやつ、ずっとそんなことを思っていたのか。
「それは、ありえないだろ」
そのときドアが開き、タエが入ってきた。
「あれー? ツカサじゃん!」
僕は、ずっと言えなかった言葉を、ツカサに耳打ちした。
「好きなら、言ってやれよ」
サンタクロースは、いつだって逡巡している。きみの幸せを願って。
どうぞ楽しいクリスマスを!
「土産」と、カウンターにフランスワインを置く。
「お、サンキュ」一年ぶりに会うというのに、時間は一気に中学時代に戻っている。中学時代からやけに気が合って、十代の頃よくつるんでいたツカサだ。彼は今、フランス転勤になって4年目で、毎年この時期には帰ってくる。
「それから、遅れたけど」
出産祝いとかかれた小さな包みを置いた。
「へースケが、パパになったとはな。中煎りのタンザニアを」
彼はメニューを一瞥し、変わらぬ好みの珈琲を注文した。僕も変わらず丁寧にミルを挽き、沸かし立ての湯でドリップする。マドレーヌをおまけに付けた。
「ありがとう」と、包みを受け取る。
ツカサは珈琲をゆっくりと味わい、懐かしそうにシエナのマドレーヌを見た。
「新製品のベリー風味。タンザニアとの相性ばっちりだ」
そしてツカサは、珈琲を半分飲んだところで、いつものように聞いた。
「で、タエは、元気か?」
中学時代の同級生で、カフェ・ド・C常連のタエ。
「元気すぎるくらいだよ。元気でひとりだ」 「仕事は?」
「変わらず、フリーライターで食ってる。楽しそうだよ。大きな仕事も入ってくるようになったらしい」 「そうか」
ツカサは、軽くため息をついた。ホッとしたというようなため息。
好きなら、言ってやれよ。という言葉を、毎年のように僕は飲み込んだ。僕には言えない。中2の頃、僕はタエと付き合っていた。彼女は今と変わらず、明るく活発で気さくで、そして学年で1、2を争う美人だった。タエに告白され、僕は舞い上がった。そして特に彼女が好きだったわけでもないのに、恋をしていると勘違いした。結果、タエを傷つけた。彼女には僕のそんな気持ちはお見通しで、半年でフラれた。
「へーちゃんなんか、大っ嫌い!」
ぼろぼろ涙を流す14歳のタエの顔は、今でも忘れない。
紆余曲折あり、高校の頃も、ツカサとタエと3人でよく遊んだ。タエは恋多き十代を過ごしていたが、失恋するたびに僕らを呼び出しては遊びに行った。その間、何度かツカサがタエにフラれたのも知っている。タエはツカサと付き合おうとしなかった。それは、恐かったからなんじゃないかと今になって思う。無くしたくない場所だと、僕らを思っていてくれたからなんじゃないかって。
「そうか。変わらずひとりか」
「何度か恋に、破れながらもね」
「そうか」ツカサは、また軽くため息をつく。
「あいつ、まだヘースケのことが好きなんじゃないのか?」
「まさか!」ツカサのやつ、ずっとそんなことを思っていたのか。
「それは、ありえないだろ」
そのときドアが開き、タエが入ってきた。
「あれー? ツカサじゃん!」
僕は、ずっと言えなかった言葉を、ツカサに耳打ちした。
「好きなら、言ってやれよ」
サンタクロースは、いつだって逡巡している。きみの幸せを願って。
どうぞ楽しいクリスマスを!
のんびりいこう
雪の日。長靴を履いてびっきーと散歩に出かけた。
びっきーは雪が大好きで、雪の上をサクサク音を立てリズミカルに歩く。雪を食べたり、蹴散らしたり、顔を突っ込んで匂いを嗅いだり、遊びながら散歩するので、いつもの道に倍の時間がかかる。
北風はなく穏やかな陽が差し、青空が見え始めた。わたしもびっきーペースの、のんびりとした気分になり、雪をかぶったアメリカセンダングサや、セキレイが尻尾を振る様子や、ジョウビタキの羽根に入った白いラインを眩しく眺める。鳥達も心なしかいつもよりのんびりしているように見え、近くで眺めていても慌てて飛んで行ったりしない。
師走。やること、やらなきゃならないことが、列を成して並んでいる。何かと忙しく慌ただしい。だが雪の休日、びっきーとのんびり散歩して、のんびりペースを思い出した。
「気持ちいいなぁ」と声に出してみる。
わたしの声に驚いたのか、山鳩が3羽、冬枯れの草むらから飛び立った。
のんびりペースを思い出すと、いったい何をせかせかとしていたんだろうと可笑しくなる。
のんびりと夕飯に娘の好きな八宝菜を作り、のんびりと薪を運んで火を燃やし、のんびりと娘を図書館に迎えに行き、のんびりと風呂を沸かした。
柚子湯にのんびりとつかり、考えた。やっていることも時間もたぶん変わらない。だったらのんびりいこうよと。でもそれがなかなかできないんだよなぁ。
僕はのんびりしていた訳ではありません。
ん!? この匂いは! んんっ?? 分析解明に忙しいんです。
雪が匂いを消してしまうので、たいへんなんです。
顔を突っ込んで遊んでいるなんて、ひどい誤解だ。
びっきーは雪が大好きで、雪の上をサクサク音を立てリズミカルに歩く。雪を食べたり、蹴散らしたり、顔を突っ込んで匂いを嗅いだり、遊びながら散歩するので、いつもの道に倍の時間がかかる。
北風はなく穏やかな陽が差し、青空が見え始めた。わたしもびっきーペースの、のんびりとした気分になり、雪をかぶったアメリカセンダングサや、セキレイが尻尾を振る様子や、ジョウビタキの羽根に入った白いラインを眩しく眺める。鳥達も心なしかいつもよりのんびりしているように見え、近くで眺めていても慌てて飛んで行ったりしない。
師走。やること、やらなきゃならないことが、列を成して並んでいる。何かと忙しく慌ただしい。だが雪の休日、びっきーとのんびり散歩して、のんびりペースを思い出した。
「気持ちいいなぁ」と声に出してみる。
わたしの声に驚いたのか、山鳩が3羽、冬枯れの草むらから飛び立った。
のんびりペースを思い出すと、いったい何をせかせかとしていたんだろうと可笑しくなる。
のんびりと夕飯に娘の好きな八宝菜を作り、のんびりと薪を運んで火を燃やし、のんびりと娘を図書館に迎えに行き、のんびりと風呂を沸かした。
柚子湯にのんびりとつかり、考えた。やっていることも時間もたぶん変わらない。だったらのんびりいこうよと。でもそれがなかなかできないんだよなぁ。
僕はのんびりしていた訳ではありません。
ん!? この匂いは! んんっ?? 分析解明に忙しいんです。
雪が匂いを消してしまうので、たいへんなんです。
顔を突っ込んで遊んでいるなんて、ひどい誤解だ。
拓けた未来
古代マヤ文明の暦が終わる日。わたしは久しぶりに美容室『ETT』でゆっくりと髪を染めてもらい、新しい珈琲屋を開拓した。横浜に本店を置くチェーン店で、その名も『珈琲問屋』 美容師のみなこさんに教えてもらい、さっそく帰りに立ち寄ってみた。
店内に入ると、麻袋や樽に入った生豆がずらりと並んでいる。その生豆を選び、それから焙煎してもらうのだという。焙煎も7~8段階に指定でき、その上、焙煎の待ち時間は10分とかからない。価格もお手頃だ。そんな夢みたいな珈琲屋が甲府にあったのだ。
豆を注文し、ポイントカードを作ると、珈琲をサービスしてくれた。窓際のカウンターで飲んだ珈琲は、まさにわたしにためだけに愛をこめて淹れてくれたように美味しかった。
思わず胸の中で力強くガッツポーズした。ここふた月ほど、珈琲豆を探し放浪していたのだ。甲府方面から山梨の果て小淵沢まで、何軒も珈琲屋をまわり、珈琲を飲み豆を買った。東京ではデパ地下の珈琲屋巡りをした。しかしこれだという珈琲は、お決まりのように値が張って、一度試したはいいけれど2度目は雲の上に行ってしまう。
酸味が勝った浅煎りから中煎りというかたよった好みを持つ自分が変わり者なのかと半ば諦めかけていたのだ。
自称かたよった珈琲通である、わたしの未来は拓けた。未来は、古代マヤ文明の暦の終わりと共に訪れたのだ。
生豆は、ベージュで、緑がかったものもあります。
珈琲の他、お菓子や紅茶などの飲み物類、雑貨も置いてあって楽しめます。
KONOのドリッパー、ショッキングピンクバージョンがあって、買いそうになり自粛しました。
コーヒーブラウンの同じものを持ってるのに欲しくなるんだよなぁ。
店内に入ると、麻袋や樽に入った生豆がずらりと並んでいる。その生豆を選び、それから焙煎してもらうのだという。焙煎も7~8段階に指定でき、その上、焙煎の待ち時間は10分とかからない。価格もお手頃だ。そんな夢みたいな珈琲屋が甲府にあったのだ。
豆を注文し、ポイントカードを作ると、珈琲をサービスしてくれた。窓際のカウンターで飲んだ珈琲は、まさにわたしにためだけに愛をこめて淹れてくれたように美味しかった。
思わず胸の中で力強くガッツポーズした。ここふた月ほど、珈琲豆を探し放浪していたのだ。甲府方面から山梨の果て小淵沢まで、何軒も珈琲屋をまわり、珈琲を飲み豆を買った。東京ではデパ地下の珈琲屋巡りをした。しかしこれだという珈琲は、お決まりのように値が張って、一度試したはいいけれど2度目は雲の上に行ってしまう。
酸味が勝った浅煎りから中煎りというかたよった好みを持つ自分が変わり者なのかと半ば諦めかけていたのだ。
自称かたよった珈琲通である、わたしの未来は拓けた。未来は、古代マヤ文明の暦の終わりと共に訪れたのだ。
生豆は、ベージュで、緑がかったものもあります。
珈琲の他、お菓子や紅茶などの飲み物類、雑貨も置いてあって楽しめます。
KONOのドリッパー、ショッキングピンクバージョンがあって、買いそうになり自粛しました。
コーヒーブラウンの同じものを持ってるのに欲しくなるんだよなぁ。
日和見フィット
冷え込んだ朝、車中での娘との会話。
「あれ? フィットの外気温表示、3℃になってる」とわたし。
「嘘だぁ。そんなわけないよ、こんなに寒いのに」と娘。
「だよねー」「おかしいねー」と話して、ふと見ると表示が-3℃に。
「あー、やだなぁ。フィット、あわてて修正した」と娘。
「嘘がバレて誤魔化したね、今の」とわたし。
翌日はいきなり-6℃だった。
「うわっ、正直すぎるでしょう」とわたし。
「思いやりが欲しいね」と娘。
「正論を言うやつは嫌われるんだよ」
「せめて-4℃くらいにするのが常識だな」
「あ、-5℃になった」「無言で、しっかり聴いてるし」
朝の寒さに切れて、ふたりフィットに言いたい放題だ。それにしてもフィットの日和見的な反応は、やけに可笑しい。可笑しくて、ふたりで笑う。笑うと体温が上がる気がする。日和見フィットのおかげで、無人駅のホームに立つ娘の周りの気温は1℃くらい上がっているんじゃないかな。たぶん。
「だってだって、そういう設定なんだもん!」とか、
「もう! 走るのやめた」とかフィットが思ったかどうかはわからない。
「ごめんなさい。毎日ありがとう」
降りる時に心からの礼を述べたが、凍った黒のフィットは憮然としているように見えた。
玄関の前の駐車場。八ヶ岳は朝焼けに染まっていました。
「あれ? フィットの外気温表示、3℃になってる」とわたし。
「嘘だぁ。そんなわけないよ、こんなに寒いのに」と娘。
「だよねー」「おかしいねー」と話して、ふと見ると表示が-3℃に。
「あー、やだなぁ。フィット、あわてて修正した」と娘。
「嘘がバレて誤魔化したね、今の」とわたし。
翌日はいきなり-6℃だった。
「うわっ、正直すぎるでしょう」とわたし。
「思いやりが欲しいね」と娘。
「正論を言うやつは嫌われるんだよ」
「せめて-4℃くらいにするのが常識だな」
「あ、-5℃になった」「無言で、しっかり聴いてるし」
朝の寒さに切れて、ふたりフィットに言いたい放題だ。それにしてもフィットの日和見的な反応は、やけに可笑しい。可笑しくて、ふたりで笑う。笑うと体温が上がる気がする。日和見フィットのおかげで、無人駅のホームに立つ娘の周りの気温は1℃くらい上がっているんじゃないかな。たぶん。
「だってだって、そういう設定なんだもん!」とか、
「もう! 走るのやめた」とかフィットが思ったかどうかはわからない。
「ごめんなさい。毎日ありがとう」
降りる時に心からの礼を述べたが、凍った黒のフィットは憮然としているように見えた。
玄関の前の駐車場。八ヶ岳は朝焼けに染まっていました。
糸コン存在の証
娘とふたりの夕飯は肉じゃが率が高い。
「鶏肉、じゃがいも、玉ねぎ、白滝。好きなものばっかり」
と、娘は喜ぶし、栄養のバランスも良く、寒い季節には温まる。うちの肉じゃがは大抵、鶏肉で作る。よりヘルシーだし、チキン大好き家族なので、評判もいい。しかし娘が一番好きなのは、何と言っても白滝だ。
「白滝って、綺麗なネーミングだよね」
と、娘は熱い白滝を口に運びつつ、さらに言った。
「春雨も綺麗だよね。でもそれに比べると糸蒟蒻って」
「確かにそのまんまだね」
神戸出身の夫は、すき焼きには糸蒟蒻だとずっと主張してきた。でもわたしにはその違いがわからなかった。蒟蒻売り場で見ても、太さの違いなどはあれど大抵白滝と表記してある。でも、ま、いっか、どっちでもとO型的てきとーさですき焼きの買い物をしてきた。そして、夫に言われるのだ。これは違うと。
「神戸では、すき焼きには糸コンなんだよ」
だがある時、突然謎は解けた。
夫の実家、神戸の家のキッチンで義母と夕食の支度をしている時。
「糸コンも入れましょうか」と義母が冷蔵庫から出したのはきっぱり「白滝」とかかれたものだったのだ。
「関西では、白滝のことを糸コンって呼ぶんだ」
ようやくすとんと腑に落ちた。
しかし調べてみると、昔は製法が違ったそうだ。蒟蒻になる前に突くのが関東で作られていた「白滝」で、蒟蒻になってから突くのが関西で作られていた「糸蒟蒻」しかし今、製法はどちらも白滝化して、違いが無くなった。呼び名だけが関東と関西で分かれているという。
「現在でははっきりと区別できる要素はないらしいよ」とわたし。
「ウィキ情報?」と娘。
「by日本こんにゃく協会。ウィキじゃないけどネット検索」
夫が神戸の家で食べたすき焼きの糸コンは、今では存在しないものだった。関西圏に、白滝を糸コンと呼ぶことで存在した証を残しつつも。
肉じゃがも美味しいけど、たまにはすき焼き、食べたいな。
神戸のすき焼きは、もちろん割り下は使いません。
肉を焼いてから、砂糖や醤油を直接肉にかけ、野菜を乗せます。
「鶏肉、じゃがいも、玉ねぎ、白滝。好きなものばっかり」
と、娘は喜ぶし、栄養のバランスも良く、寒い季節には温まる。うちの肉じゃがは大抵、鶏肉で作る。よりヘルシーだし、チキン大好き家族なので、評判もいい。しかし娘が一番好きなのは、何と言っても白滝だ。
「白滝って、綺麗なネーミングだよね」
と、娘は熱い白滝を口に運びつつ、さらに言った。
「春雨も綺麗だよね。でもそれに比べると糸蒟蒻って」
「確かにそのまんまだね」
神戸出身の夫は、すき焼きには糸蒟蒻だとずっと主張してきた。でもわたしにはその違いがわからなかった。蒟蒻売り場で見ても、太さの違いなどはあれど大抵白滝と表記してある。でも、ま、いっか、どっちでもとO型的てきとーさですき焼きの買い物をしてきた。そして、夫に言われるのだ。これは違うと。
「神戸では、すき焼きには糸コンなんだよ」
だがある時、突然謎は解けた。
夫の実家、神戸の家のキッチンで義母と夕食の支度をしている時。
「糸コンも入れましょうか」と義母が冷蔵庫から出したのはきっぱり「白滝」とかかれたものだったのだ。
「関西では、白滝のことを糸コンって呼ぶんだ」
ようやくすとんと腑に落ちた。
しかし調べてみると、昔は製法が違ったそうだ。蒟蒻になる前に突くのが関東で作られていた「白滝」で、蒟蒻になってから突くのが関西で作られていた「糸蒟蒻」しかし今、製法はどちらも白滝化して、違いが無くなった。呼び名だけが関東と関西で分かれているという。
「現在でははっきりと区別できる要素はないらしいよ」とわたし。
「ウィキ情報?」と娘。
「by日本こんにゃく協会。ウィキじゃないけどネット検索」
夫が神戸の家で食べたすき焼きの糸コンは、今では存在しないものだった。関西圏に、白滝を糸コンと呼ぶことで存在した証を残しつつも。
肉じゃがも美味しいけど、たまにはすき焼き、食べたいな。
神戸のすき焼きは、もちろん割り下は使いません。
肉を焼いてから、砂糖や醤油を直接肉にかけ、野菜を乗せます。
季節の香りの宅配便
風邪だろうか。洗濯物だけ干して、朝から眠っていたら、友人からの電話に起こされた。
「柚子がたくさん生ったんだけど、いる?」
「あ、欲しい。うん。柚子大好き」
東京で農業を営むご主人と暮らす彼女は、結婚前からの友人。保育士になるための勉強をしながら勤めていた会社の同僚だった。1年か2年に一度、ゆっくりと会っておしゃべりしたりもするが、暮れの忙しい時期に、こうして思い出してくれたことが嬉しかった。
届いた箱を開けると、柚子の香りが広がった。クチナシの実が柚子を飾るようにいくつか入っている。彼女のセンスの良さに感じ入りつつ、柚子を一つ手に取り匂いを嗅いでみる。うん。柚子だ。いい香り。
さっそく、いただきものの大根で、柚子大根を作った。柚子は刻むと強く香り、その酸味を思い切り含んだ香りに、また微笑む。
柚子大根を口に入れ、考えた。人と人って不思議だな。彼女がわたしを思い出してくれた時、わたしも彼女を思い出していたのだ。それは年賀状をかくという年中行事の中でのことだったが、確かに彼女を思い出し一筆したためた。
子ども達が幼かった頃一緒にキャンプしたことや、彼女の息子が働くビールバーでふたり何種類ものビールを飲んだことや、遊びに行った彼女の家の雰囲気や広い庭に咲く花を思い出し、賀状をかいたのだ。
来年はたぶん、会ってゆっくりしゃべれるだろう。柚子の黄色にふと思い、気づいた。風邪はもう、何処かに去っていた。
太陽をいっぱいに浴びたと言わんばかりの柚子と一緒に、
手紙が入っていました。「寒い冬を元気にのりきって、春に会おうね!」
「柚子がたくさん生ったんだけど、いる?」
「あ、欲しい。うん。柚子大好き」
東京で農業を営むご主人と暮らす彼女は、結婚前からの友人。保育士になるための勉強をしながら勤めていた会社の同僚だった。1年か2年に一度、ゆっくりと会っておしゃべりしたりもするが、暮れの忙しい時期に、こうして思い出してくれたことが嬉しかった。
届いた箱を開けると、柚子の香りが広がった。クチナシの実が柚子を飾るようにいくつか入っている。彼女のセンスの良さに感じ入りつつ、柚子を一つ手に取り匂いを嗅いでみる。うん。柚子だ。いい香り。
さっそく、いただきものの大根で、柚子大根を作った。柚子は刻むと強く香り、その酸味を思い切り含んだ香りに、また微笑む。
柚子大根を口に入れ、考えた。人と人って不思議だな。彼女がわたしを思い出してくれた時、わたしも彼女を思い出していたのだ。それは年賀状をかくという年中行事の中でのことだったが、確かに彼女を思い出し一筆したためた。
子ども達が幼かった頃一緒にキャンプしたことや、彼女の息子が働くビールバーでふたり何種類ものビールを飲んだことや、遊びに行った彼女の家の雰囲気や広い庭に咲く花を思い出し、賀状をかいたのだ。
来年はたぶん、会ってゆっくりしゃべれるだろう。柚子の黄色にふと思い、気づいた。風邪はもう、何処かに去っていた。
太陽をいっぱいに浴びたと言わんばかりの柚子と一緒に、
手紙が入っていました。「寒い冬を元気にのりきって、春に会おうね!」
バカはシャングリラを目指して
この町の子ども達は、アメリカセンダングサのことをバカと呼ぶ。黄色く小さな花を秋に咲かせるこの雑草は、種が服に付きやすく、タンポポのように飛ぶことはないが、動物や人に付いて移動し、あちこちに生息している。
で、子ども達は、友達の背中にその種をくっ付け、囃し立てるのだ。
「バカが付いてるぞー!」「バカだらけー!」
他愛のない遊びだ。他の町でもこの植物は、バカと呼ばれているのだろうか。
ネット検索してみたら、なんと様々な地方でバカと呼ばれていることが分かった。まるでアメリカセンダングサの種のようだ。人の口という媒体を通し、その通称さえも雑草の如くしぶとく生き残り、広がったのだろう。
世界中を旅するバカを思い浮かべ、洗濯物に付いた種を一つ一つ取り除く。
「旅に出ようかな」
小さく細い種をつまんで、つぶやくと、娘達が一時期よく聴いていたロックバンド、GO!GO!7188の『シャングリラ』のメロディが思い浮かんだ。
♪ 泣いてばかりじゃマスカラが落ちてしまうから そろそろ旅に出なくちゃね
『シャングリラ』には、理想郷って意味があるらしい。わたしもバカのように、シャングリラを目指そうか。そろそろ旅に出なくちゃね。
花はすっかり終わりました。散歩中、びっきーにもよくくっ付いてます。
散歩コースには畑の如く、アメリカセンダングサが広がる空き地があります。
で、子ども達は、友達の背中にその種をくっ付け、囃し立てるのだ。
「バカが付いてるぞー!」「バカだらけー!」
他愛のない遊びだ。他の町でもこの植物は、バカと呼ばれているのだろうか。
ネット検索してみたら、なんと様々な地方でバカと呼ばれていることが分かった。まるでアメリカセンダングサの種のようだ。人の口という媒体を通し、その通称さえも雑草の如くしぶとく生き残り、広がったのだろう。
世界中を旅するバカを思い浮かべ、洗濯物に付いた種を一つ一つ取り除く。
「旅に出ようかな」
小さく細い種をつまんで、つぶやくと、娘達が一時期よく聴いていたロックバンド、GO!GO!7188の『シャングリラ』のメロディが思い浮かんだ。
♪ 泣いてばかりじゃマスカラが落ちてしまうから そろそろ旅に出なくちゃね
『シャングリラ』には、理想郷って意味があるらしい。わたしもバカのように、シャングリラを目指そうか。そろそろ旅に出なくちゃね。
花はすっかり終わりました。散歩中、びっきーにもよくくっ付いてます。
散歩コースには畑の如く、アメリカセンダングサが広がる空き地があります。
年末お疲れ対策に生姜鍋
生姜鍋に挑戦した。先日遊びに来た夫の友人に教わったものだ。
生姜のスライスと針生姜をたっぷり入れて、味付けは鶏ガラスープの素のみでやることにした。
折も折、近所の農家さんから、ずっしり重い白菜を2ついただいた。切ると瑞々しく生でかじりたくなるくらい綺麗な白菜だ。
鍋に水から生姜を入れて沸騰した時には、部屋じゅう、甘い生姜の匂いが漂っていた。夫は出張帰りで疲れていたが、生姜の匂いに食欲も湧いたようだ。
「疲れた時に食べるにはいいね、これ」と夫。
薄味でシンプルな野菜たっぷりの鍋は、忘年会シーズンの胃が疲れた時にもオススメかも。そしてしばらく食べた後、あれ? っと思った。
「すごい! 足の先まで、あったかい!」
「確かにからだじゅう、温まってるね」
生姜パワー、恐るべし。足の先のほかほか感は、翌朝まで続いたのだ。
「生姜はどのくらい入れればいいの?」 と夫が友人にメールしたら、
返事は「たくさん」 一袋分、とりあえず入れました。
一袋(写真では切った量)で、生姜パワーの効果ばっちりです。
生姜のスライスと針生姜をたっぷり入れて、味付けは鶏ガラスープの素のみでやることにした。
折も折、近所の農家さんから、ずっしり重い白菜を2ついただいた。切ると瑞々しく生でかじりたくなるくらい綺麗な白菜だ。
鍋に水から生姜を入れて沸騰した時には、部屋じゅう、甘い生姜の匂いが漂っていた。夫は出張帰りで疲れていたが、生姜の匂いに食欲も湧いたようだ。
「疲れた時に食べるにはいいね、これ」と夫。
薄味でシンプルな野菜たっぷりの鍋は、忘年会シーズンの胃が疲れた時にもオススメかも。そしてしばらく食べた後、あれ? っと思った。
「すごい! 足の先まで、あったかい!」
「確かにからだじゅう、温まってるね」
生姜パワー、恐るべし。足の先のほかほか感は、翌朝まで続いたのだ。
「生姜はどのくらい入れればいいの?」 と夫が友人にメールしたら、
返事は「たくさん」 一袋分、とりあえず入れました。
一袋(写真では切った量)で、生姜パワーの効果ばっちりです。
一瞬の小さな出来事
娘と一緒に流れ星を見た。双子座流星群が流れた夜だ。
夜9時まで友人達と勉強会をする娘を迎えに行き、帰ってきたのは9時20分くらいだろうか。車を降りると星がいつもに増して数多く輝いていた。
「おー、オリオン座がくっきり見える」
わたしの言葉に娘が顔をあげた瞬間、星が流れた。
「流れ星!」「うわっ、久々に見た!」
寒空の下ふたり歓声を上げた。
「そう言えば、今夜双子座流星群が流れるんだった」
「そうだった!」
流れ星を見た後にふたりで気づいた。朝、娘からその情報を聞いたばかりだったのに、すっかり忘れていたのだ。後から気づいたことがまた可笑しくふたりで笑う。流れ星は、確かな存在感を示し綺麗な線を夜空に描いたが、何か儚く、まるでわたし達、母娘へのプレゼントのような気がして嬉しかった。
一瞬の出来事。ほんの小さなことだ。きっと娘はすぐに忘れてしまうだろう。だから余計に取っておきたいと思った。朝聞いた情報すらすぐに忘れてしまうわたしだが、忘れずにおこうと、胸の中の大切な場所にしまった。
リビングに置いてある貝殻でできた教会。知人の画家さんが作ったものです。
蝋燭のようにちらちら灯るライトが入っていて雰囲気があります。
こんな教会に住んでいたら、いつでも流れ星が見られそう。
夜9時まで友人達と勉強会をする娘を迎えに行き、帰ってきたのは9時20分くらいだろうか。車を降りると星がいつもに増して数多く輝いていた。
「おー、オリオン座がくっきり見える」
わたしの言葉に娘が顔をあげた瞬間、星が流れた。
「流れ星!」「うわっ、久々に見た!」
寒空の下ふたり歓声を上げた。
「そう言えば、今夜双子座流星群が流れるんだった」
「そうだった!」
流れ星を見た後にふたりで気づいた。朝、娘からその情報を聞いたばかりだったのに、すっかり忘れていたのだ。後から気づいたことがまた可笑しくふたりで笑う。流れ星は、確かな存在感を示し綺麗な線を夜空に描いたが、何か儚く、まるでわたし達、母娘へのプレゼントのような気がして嬉しかった。
一瞬の出来事。ほんの小さなことだ。きっと娘はすぐに忘れてしまうだろう。だから余計に取っておきたいと思った。朝聞いた情報すらすぐに忘れてしまうわたしだが、忘れずにおこうと、胸の中の大切な場所にしまった。
リビングに置いてある貝殻でできた教会。知人の画家さんが作ったものです。
蝋燭のようにちらちら灯るライトが入っていて雰囲気があります。
こんな教会に住んでいたら、いつでも流れ星が見られそう。
きみの言う通りだ
「きみの言う通りだ」というおまじないをよく使う。
日常、小さなことで人と人とは意見の食い違いをみる。たとえば、洗濯物を外に干すか、家の中に干すか。太陽が照る日中、外に干すのは気持ちがいいが、薪ストーブの真上、吹き抜けの2階の廊下に物干しスペースがある我が家では、冬場、家の中に干した方が乾きは早いし、家の中の加湿効果も上がり一石二鳥だ。なので大抵わたしは家の中に干す。しかし、夫が太陽のあたるウッドデッキを見て言った。
「外に干したら?」
わたしは逡巡した。昼に宅配便で届いた夫の洗濯物は、午後から外に干しても乾かないだろう。しかし心の中でつぶやく。
「きみの言う通りだ」
そして「そうだね」と言って、洗濯物をウッドデッキに干した。洗濯物は、夕方結局2階に干し直さなくてはならなかったが、太陽にあてるのは気持ちがいい。外に干してもいい点と悪い点があり、中に干しても同じなのだ。
伊坂幸太郎の『グラスホッパー』(角川文庫)の主人公、鈴木は亡き妻のことをよく思い出した。
「彼女は、きみの言う通りだと同意されると、どんな時も機嫌がよかった」
鈴木の妻は、物語が始まった時にはすでに死んでいたが、とても可愛らしく、わたしも伊坂幸太郎ファンクラブ(在籍2名)の仲間も、彼女が好きだ。そして鈴木は妻の口癖「やるしかないじゃない」に「きみの言う通りだ」と心の中で答え続け、危険な組織から逃げ切った。その『グラスホッパー』を読み、わたしは、このおまじないを覚えた。
ともすれば、自分の考えばかりに偏りがちになるが、このおまじないを唱えることで自分以外の人の考えを取り入れることができる。
その時には反論しても、後からだっていい。「彼の(または彼女の)言う通りかも」と振り返ってみる。
そうして自分の中で誰かの考えが広がっていく時、目の前の道が、ほんの少しだけ広がったような気がする。その感覚が好きだ。
それに加え「きみの言う通りだね」と言葉にして言うと、夫も鈴木の妻のごとく、やはりとても機嫌がよくなる。これも一石二鳥かな?
ウッドデッキに干した洗濯物と、冬枯れの隣の林。
庭に小さく写っているのは、夫が置いた野鳥用の水場と、焚き火台。
ヤマガラやシジュウカラがやって来ます。
カケスやツグミ、ジョウビタキも見かけるようになりました。
日常、小さなことで人と人とは意見の食い違いをみる。たとえば、洗濯物を外に干すか、家の中に干すか。太陽が照る日中、外に干すのは気持ちがいいが、薪ストーブの真上、吹き抜けの2階の廊下に物干しスペースがある我が家では、冬場、家の中に干した方が乾きは早いし、家の中の加湿効果も上がり一石二鳥だ。なので大抵わたしは家の中に干す。しかし、夫が太陽のあたるウッドデッキを見て言った。
「外に干したら?」
わたしは逡巡した。昼に宅配便で届いた夫の洗濯物は、午後から外に干しても乾かないだろう。しかし心の中でつぶやく。
「きみの言う通りだ」
そして「そうだね」と言って、洗濯物をウッドデッキに干した。洗濯物は、夕方結局2階に干し直さなくてはならなかったが、太陽にあてるのは気持ちがいい。外に干してもいい点と悪い点があり、中に干しても同じなのだ。
伊坂幸太郎の『グラスホッパー』(角川文庫)の主人公、鈴木は亡き妻のことをよく思い出した。
「彼女は、きみの言う通りだと同意されると、どんな時も機嫌がよかった」
鈴木の妻は、物語が始まった時にはすでに死んでいたが、とても可愛らしく、わたしも伊坂幸太郎ファンクラブ(在籍2名)の仲間も、彼女が好きだ。そして鈴木は妻の口癖「やるしかないじゃない」に「きみの言う通りだ」と心の中で答え続け、危険な組織から逃げ切った。その『グラスホッパー』を読み、わたしは、このおまじないを覚えた。
ともすれば、自分の考えばかりに偏りがちになるが、このおまじないを唱えることで自分以外の人の考えを取り入れることができる。
その時には反論しても、後からだっていい。「彼の(または彼女の)言う通りかも」と振り返ってみる。
そうして自分の中で誰かの考えが広がっていく時、目の前の道が、ほんの少しだけ広がったような気がする。その感覚が好きだ。
それに加え「きみの言う通りだね」と言葉にして言うと、夫も鈴木の妻のごとく、やはりとても機嫌がよくなる。これも一石二鳥かな?
ウッドデッキに干した洗濯物と、冬枯れの隣の林。
庭に小さく写っているのは、夫が置いた野鳥用の水場と、焚き火台。
ヤマガラやシジュウカラがやって来ます。
カケスやツグミ、ジョウビタキも見かけるようになりました。
亀の首が手放せない季節
娘はいつも薄着で、まとわりつく感じが嫌いなのかタートルネックは着ない。
しかしあまりに寒い時、家の中でマフラーを巻いている。
「タートルネック着ればいいのに。いつでもユニクロで買ってくるよ」
わたしが言ってもイエスと言わない。薄手の物なら持ってもいるはずだ。なのに、マフラーだ。
そのマフラーをしたまま、彼女は炬燵でうとうとしていた。
そして「うわっ! 」と、突然起き上がった。
「どうしたの?」と、わたし。
「いやー、びっくりしたー。首になんか布が巻きついてて、何これ? って思ったらマフラーだった」
「だからー、タートルネック着ろって言ってるのに」
「タートルネックってさ、直訳すると亀の首だよ」
「ほんとだ」言われてみると笑ってしまう。
「亀の首ってさーって感じじゃん」「だねー」
しかし母は、その亀の首を手放せない。亀の首なしでは即座に風邪をひき、寝込む様が見えている。だから毎日亀の首を着ている。
とはいえ亀の首? 言葉って不思議だ。
タートルネックはほとんどユニクロの無地のもの。
ちょっとアレンジすれば、楽しくおしゃれに着られます。
しかしあまりに寒い時、家の中でマフラーを巻いている。
「タートルネック着ればいいのに。いつでもユニクロで買ってくるよ」
わたしが言ってもイエスと言わない。薄手の物なら持ってもいるはずだ。なのに、マフラーだ。
そのマフラーをしたまま、彼女は炬燵でうとうとしていた。
そして「うわっ! 」と、突然起き上がった。
「どうしたの?」と、わたし。
「いやー、びっくりしたー。首になんか布が巻きついてて、何これ? って思ったらマフラーだった」
「だからー、タートルネック着ろって言ってるのに」
「タートルネックってさ、直訳すると亀の首だよ」
「ほんとだ」言われてみると笑ってしまう。
「亀の首ってさーって感じじゃん」「だねー」
しかし母は、その亀の首を手放せない。亀の首なしでは即座に風邪をひき、寝込む様が見えている。だから毎日亀の首を着ている。
とはいえ亀の首? 言葉って不思議だ。
タートルネックはほとんどユニクロの無地のもの。
ちょっとアレンジすれば、楽しくおしゃれに着られます。
冷奴の器
気に入っていた器を、落として割った。悲しい。
夏の間、夫に冷奴を出す時に、よく使っていた器だ。彼と一緒に行った清里の雑貨屋で、ふたりで気に入って一つだけ買った。だから夫用となんとなく決めて使っていたのだ。
同じものを買いに行こうかという衝動に駆られた。しかし思い留まった。それでは割れた器に失礼ではないか。それに一つ一つ手作りの焼き物なのだ。同じものなどありはしない。
「冷奴、しばらく食べないし」と自分を説得する。
「しょぼーん」と、娘を真似て口に出してみる。
「わー!!!」と、控えめに叫んでみる。
「ごめんね」と謝る。
ふさぎ込んで肩を落とす。いろいろやってみたが気持ちは沈んだままだ。沈み込んだまま静かに目標を立ち上げた。
来春までに、冷奴にちょうどいい器を探そう。
冷奴を入れた在りし日の器の姿と、共に過ごした時間を思い、ありがとう、と写真に収めた。
冷奴は、断然 『男前豆腐』
京都の豆腐屋さんですが清里工場があって山梨でもいつでも手に入ります。
「水もしたたるいい豆腐」という意味合いで、男前と名付けたそうです。
器よ、本当にごめん。
夏の間、夫に冷奴を出す時に、よく使っていた器だ。彼と一緒に行った清里の雑貨屋で、ふたりで気に入って一つだけ買った。だから夫用となんとなく決めて使っていたのだ。
同じものを買いに行こうかという衝動に駆られた。しかし思い留まった。それでは割れた器に失礼ではないか。それに一つ一つ手作りの焼き物なのだ。同じものなどありはしない。
「冷奴、しばらく食べないし」と自分を説得する。
「しょぼーん」と、娘を真似て口に出してみる。
「わー!!!」と、控えめに叫んでみる。
「ごめんね」と謝る。
ふさぎ込んで肩を落とす。いろいろやってみたが気持ちは沈んだままだ。沈み込んだまま静かに目標を立ち上げた。
来春までに、冷奴にちょうどいい器を探そう。
冷奴を入れた在りし日の器の姿と、共に過ごした時間を思い、ありがとう、と写真に収めた。
冷奴は、断然 『男前豆腐』
京都の豆腐屋さんですが清里工場があって山梨でもいつでも手に入ります。
「水もしたたるいい豆腐」という意味合いで、男前と名付けたそうです。
器よ、本当にごめん。
たまたま組んだペアだって
オーストラリアの娘からびっきーの絵が届いた。
彼女は絵が苦手だったように思うが、似ている。
12月に帰る予定を2月に延ばしたのは彼女だが、ホームシックならぬびっきーシックだろうか。これまでも度々びっきーに会いたいとfacebookでつぶやいているのを見かけた。
彼女がびっきーを可愛がる様は、わたしにはとても微笑ましく映る。みずがめ座的冷たさを持つわたしは、びっきーとも適度に距離を置き、同じ部活でたまたまペアを組んだ友人のごとくつきあっている。悪い奴じゃないとおたがい分かってはいるけれど、相容れないところを持ち合わせているペア。
しかし、決して仲が悪いわけではない。最近びっきーは、軽トラに飛びかからずお座りして我慢することを覚えた。と言うのも、何故か4歳位から走って行く軽トラに限り、飛びかかるようになってしまったのだ。乗用車には目もくれない。軽だからという訳でもない。軽トラックオンリーに反応する。散歩中、農作業の軽トラが2、3回は通るし、本気で飛びかかっていくので、ものすごく危険だ。びっきー本人が。
それでわたしは根気よくジャーキーを持ち歩き、軽トラが通る前にびっきーを脇に座らせて待たせ、通り過ぎた時にジャーキーをあげるようにした。今では、軽トラ=ジャーキー。呼ばなくても自分でわたしの脇に座るようになった。ちぎったジャーキーを放り投げると、嬉しそうに空中キャッチする。娘が教えたこの技は健在だ。
たまたま組んだだけの、特に気が合う訳じゃないペアだって、時と共にその距離は、わずかではあるかもしれないけれど縮まっていくものなのだ。
夫は、軽トラが通り過ぎてもジャーキーをあげません。
「あれ? あれ? ジャーキーですよね?」と、びっきーは催促します。
夫は、途中でトレーニングをするので、それを待っていたご褒美に、
ジャーキーと決めているようです。
「統一性がないなぁ」とびっきーが思っているかどうかはわかりません。
彼女は絵が苦手だったように思うが、似ている。
12月に帰る予定を2月に延ばしたのは彼女だが、ホームシックならぬびっきーシックだろうか。これまでも度々びっきーに会いたいとfacebookでつぶやいているのを見かけた。
彼女がびっきーを可愛がる様は、わたしにはとても微笑ましく映る。みずがめ座的冷たさを持つわたしは、びっきーとも適度に距離を置き、同じ部活でたまたまペアを組んだ友人のごとくつきあっている。悪い奴じゃないとおたがい分かってはいるけれど、相容れないところを持ち合わせているペア。
しかし、決して仲が悪いわけではない。最近びっきーは、軽トラに飛びかからずお座りして我慢することを覚えた。と言うのも、何故か4歳位から走って行く軽トラに限り、飛びかかるようになってしまったのだ。乗用車には目もくれない。軽だからという訳でもない。軽トラックオンリーに反応する。散歩中、農作業の軽トラが2、3回は通るし、本気で飛びかかっていくので、ものすごく危険だ。びっきー本人が。
それでわたしは根気よくジャーキーを持ち歩き、軽トラが通る前にびっきーを脇に座らせて待たせ、通り過ぎた時にジャーキーをあげるようにした。今では、軽トラ=ジャーキー。呼ばなくても自分でわたしの脇に座るようになった。ちぎったジャーキーを放り投げると、嬉しそうに空中キャッチする。娘が教えたこの技は健在だ。
たまたま組んだだけの、特に気が合う訳じゃないペアだって、時と共にその距離は、わずかではあるかもしれないけれど縮まっていくものなのだ。
夫は、軽トラが通り過ぎてもジャーキーをあげません。
「あれ? あれ? ジャーキーですよね?」と、びっきーは催促します。
夫は、途中でトレーニングをするので、それを待っていたご褒美に、
ジャーキーと決めているようです。
「統一性がないなぁ」とびっきーが思っているかどうかはわかりません。
幸せ感じるなぁ、鍋
「今夜は鍋にしようか」「いいね!」
何かのCMのような会話頻度が上昇する季節だ。
「何鍋にする?」「やっぱり普通鍋かな」
普通鍋というのは、我が家では寄せ鍋のこと。いろいろ入れて、昆布の出汁と酒、薄口醤油、味醂で薄く味つけする。
「牡蠣だ!」買い物かごの中身を見て、海鮮好きな娘が嬉しそうな声を上げた。普通鍋の常連さんは鶏もも肉と牡蠣、銀鱈。これだけ入れば、薄味でも出汁の旨味で白菜や葱も美味しく食べられる。
そしてうどん。神戸出身の夫から教わった、この普通鍋。別名「うどんすき」という。神戸の義母の味だ。うどんを入れたり入れなかったりしているうちに、寄せ鍋と呼ぶには「うどんすき」のうどん抜きだし、なんか違うなぁということで、普通鍋という何とも普通じゃない呼び名が定着してしまった。
ちなみによく登場する鍋は「韓国風白菜鍋」「鳥たたき鍋」「チゲ鍋」「湯豆腐」「トンしゃぶ」かな。鍋のいいところは、野菜をたくさん食べられること。熱々の鍋で野菜をたっぷり食べ、からだの中から温まると、気持ちまでほかほかしてくる。幸せ感じるなぁ、鍋。
しかし日曜日。夫が鍋にもかかわらず遅刻した。近所の友人と町の温泉に行き、そのまま飲み始めてしまったのだ。不機嫌になったわたしをなだめるように、彼は炬燵に卓上コンロを用意し、具材を鍋に入れ味付けをした。わたしは怒っている振りを続け、王様のようにただ鍋を食べ、ビールを飲んだ。そして熱燗をつけ、ふたりぬる燗で呑んだ。幸せ感じるなぁ、炬燵で鍋。そうして延々と酒を酌み交わし、夜は更けていった。ちょっと呑み過ぎたかな。まあ、それもまた鍋だ。
白子も入れてみました。でも、食べる前に無くなっていました。
酔っぱらうと駆け引きに負けてしまいます。
ちゃんと食べてから、酔っぱらいましょう。
何かのCMのような会話頻度が上昇する季節だ。
「何鍋にする?」「やっぱり普通鍋かな」
普通鍋というのは、我が家では寄せ鍋のこと。いろいろ入れて、昆布の出汁と酒、薄口醤油、味醂で薄く味つけする。
「牡蠣だ!」買い物かごの中身を見て、海鮮好きな娘が嬉しそうな声を上げた。普通鍋の常連さんは鶏もも肉と牡蠣、銀鱈。これだけ入れば、薄味でも出汁の旨味で白菜や葱も美味しく食べられる。
そしてうどん。神戸出身の夫から教わった、この普通鍋。別名「うどんすき」という。神戸の義母の味だ。うどんを入れたり入れなかったりしているうちに、寄せ鍋と呼ぶには「うどんすき」のうどん抜きだし、なんか違うなぁということで、普通鍋という何とも普通じゃない呼び名が定着してしまった。
ちなみによく登場する鍋は「韓国風白菜鍋」「鳥たたき鍋」「チゲ鍋」「湯豆腐」「トンしゃぶ」かな。鍋のいいところは、野菜をたくさん食べられること。熱々の鍋で野菜をたっぷり食べ、からだの中から温まると、気持ちまでほかほかしてくる。幸せ感じるなぁ、鍋。
しかし日曜日。夫が鍋にもかかわらず遅刻した。近所の友人と町の温泉に行き、そのまま飲み始めてしまったのだ。不機嫌になったわたしをなだめるように、彼は炬燵に卓上コンロを用意し、具材を鍋に入れ味付けをした。わたしは怒っている振りを続け、王様のようにただ鍋を食べ、ビールを飲んだ。そして熱燗をつけ、ふたりぬる燗で呑んだ。幸せ感じるなぁ、炬燵で鍋。そうして延々と酒を酌み交わし、夜は更けていった。ちょっと呑み過ぎたかな。まあ、それもまた鍋だ。
白子も入れてみました。でも、食べる前に無くなっていました。
酔っぱらうと駆け引きに負けてしまいます。
ちゃんと食べてから、酔っぱらいましょう。
難を転ずる小さく赤い実
今年は庭の南天がたくさん実をつけた。
赤い実と緑の葉の組み合わせはクリスマスカラーにも関わらず、お正月を連想させる。和の雰囲気を持つせいもあるが、縁起がいいとお正月に飾られるからだろう。南天(なんてん)は、その音から難を転ずると言われているのだ。
わたしの難、転ずるかな。今年もいろいろなことがあった。転じて福になるような種類のわざわいなら自分で転じてきた気もする。夫と、またはひとりで、それから友人達と飲みたいだけ酒も飲んだし、時には怒り、時には泣き、時には眠りたいだけ眠り、時にはしゃべりたいだけしゃべり、笑いたいだけ笑って、わざわいだって何だって笑い飛ばしちゃおう! って感じで。
Look at the bright side.
「どんな出来事にもいい面は必ずあるし、明るい側面を見て生きていこうよ」
南天を見ながら、今年の夏、友人にもらった言葉を思い出す。
ひと房切って、南天を窓際に飾った。難を転ずる小さく赤い実も「それでいいさ」と笑っているように見えた。
夫の友人のガラス工房の花瓶に、南天はよく似合います。
赤い実と緑の葉の組み合わせはクリスマスカラーにも関わらず、お正月を連想させる。和の雰囲気を持つせいもあるが、縁起がいいとお正月に飾られるからだろう。南天(なんてん)は、その音から難を転ずると言われているのだ。
わたしの難、転ずるかな。今年もいろいろなことがあった。転じて福になるような種類のわざわいなら自分で転じてきた気もする。夫と、またはひとりで、それから友人達と飲みたいだけ酒も飲んだし、時には怒り、時には泣き、時には眠りたいだけ眠り、時にはしゃべりたいだけしゃべり、笑いたいだけ笑って、わざわいだって何だって笑い飛ばしちゃおう! って感じで。
Look at the bright side.
「どんな出来事にもいい面は必ずあるし、明るい側面を見て生きていこうよ」
南天を見ながら、今年の夏、友人にもらった言葉を思い出す。
ひと房切って、南天を窓際に飾った。難を転ずる小さく赤い実も「それでいいさ」と笑っているように見えた。
夫の友人のガラス工房の花瓶に、南天はよく似合います。
初雪
休日の朝。カーテンを開けると「雪?」娘が嬉しそうな声を出した。
「こんにちは」と挨拶するようにウッドデッキにはうっすらと初雪が積もっている。今年は早いなぁと思っていたら「例年より1日早い初雪」と、朝のニュースが聞こえた。
そうか。早いわけでもなんでもなく、もう初雪が舞う季節なのだ。
12月に入り1週間。書類やメールで12月という文字を何度も目にしているというのに、わたしの中ではまだ、11月が終わらず居座っている。
今年中にやろう、年内にやっておこうと思っている様々なことがあるのに、時は容赦なく過ぎて行く。たぶんそれで自分の時間を止めていたのだ。11月という何とも中途半端な場所で。
雪はしんとも言わず教えてくれた。「今年もそろそろ、おしまいですよ」
何処までも雪は白いなぁと思いつつ修正した。
「今年中に」を消し「今期中に」春が来るまでにということで、ま、いっか。
と言いつつ、忘年会で「去年は」と今年のことを言ってしまいました。
何処までボケているのやら……
「こんにちは」と挨拶するようにウッドデッキにはうっすらと初雪が積もっている。今年は早いなぁと思っていたら「例年より1日早い初雪」と、朝のニュースが聞こえた。
そうか。早いわけでもなんでもなく、もう初雪が舞う季節なのだ。
12月に入り1週間。書類やメールで12月という文字を何度も目にしているというのに、わたしの中ではまだ、11月が終わらず居座っている。
今年中にやろう、年内にやっておこうと思っている様々なことがあるのに、時は容赦なく過ぎて行く。たぶんそれで自分の時間を止めていたのだ。11月という何とも中途半端な場所で。
雪はしんとも言わず教えてくれた。「今年もそろそろ、おしまいですよ」
何処までも雪は白いなぁと思いつつ修正した。
「今年中に」を消し「今期中に」春が来るまでにということで、ま、いっか。
と言いつつ、忘年会で「去年は」と今年のことを言ってしまいました。
何処までボケているのやら……
HN:
水月さえ
性別:
女性
自己紹介:
本を読むのが好き。昼寝が好き。ドライブが好き。陶器屋や雑貨屋巡りが好き。アジアン雑貨ならなお好き。ビールはカールスバーグの生がいちばん好き。そして、スペインを旅して以来、スペイン大好き。何をするにも、のんびりゆっくりが、好き。
ご意見などのメールはこちらに midukisae☆gmail.com
(☆を@に変えてください)
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