はりねずみが眠るとき

昼寝をしながら本を読み、ビールを空けて料理する日々
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小説「カフェ・ド・C」 22. 逡巡するサンタクロース

イブの朝一番に、友人が訪ねてきた。
「土産」と、カウンターにフランスワインを置く。
「お、サンキュ」一年ぶりに会うというのに、時間は一気に中学時代に戻っている。中学時代からやけに気が合って、十代の頃よくつるんでいたツカサだ。彼は今、フランス転勤になって4年目で、毎年この時期には帰ってくる。
「それから、遅れたけど」
出産祝いとかかれた小さな包みを置いた。
「へースケが、パパになったとはな。中煎りのタンザニアを」
彼はメニューを一瞥し、変わらぬ好みの珈琲を注文した。僕も変わらず丁寧にミルを挽き、沸かし立ての湯でドリップする。マドレーヌをおまけに付けた。
「ありがとう」と、包みを受け取る。
ツカサは珈琲をゆっくりと味わい、懐かしそうにシエナのマドレーヌを見た。
「新製品のベリー風味。タンザニアとの相性ばっちりだ」
そしてツカサは、珈琲を半分飲んだところで、いつものように聞いた。
「で、タエは、元気か?」
中学時代の同級生で、カフェ・ド・C常連のタエ。
「元気すぎるくらいだよ。元気でひとりだ」 「仕事は?」
「変わらず、フリーライターで食ってる。楽しそうだよ。大きな仕事も入ってくるようになったらしい」 「そうか」
ツカサは、軽くため息をついた。ホッとしたというようなため息。
好きなら、言ってやれよ。という言葉を、毎年のように僕は飲み込んだ。僕には言えない。中2の頃、僕はタエと付き合っていた。彼女は今と変わらず、明るく活発で気さくで、そして学年で1、2を争う美人だった。タエに告白され、僕は舞い上がった。そして特に彼女が好きだったわけでもないのに、恋をしていると勘違いした。結果、タエを傷つけた。彼女には僕のそんな気持ちはお見通しで、半年でフラれた。
「へーちゃんなんか、大っ嫌い!」
ぼろぼろ涙を流す14歳のタエの顔は、今でも忘れない。
紆余曲折あり、高校の頃も、ツカサとタエと3人でよく遊んだ。タエは恋多き十代を過ごしていたが、失恋するたびに僕らを呼び出しては遊びに行った。その間、何度かツカサがタエにフラれたのも知っている。タエはツカサと付き合おうとしなかった。それは、恐かったからなんじゃないかと今になって思う。無くしたくない場所だと、僕らを思っていてくれたからなんじゃないかって。
「そうか。変わらずひとりか」
「何度か恋に、破れながらもね」
「そうか」ツカサは、また軽くため息をつく。
「あいつ、まだヘースケのことが好きなんじゃないのか?」
「まさか!」ツカサのやつ、ずっとそんなことを思っていたのか。
「それは、ありえないだろ」
そのときドアが開き、タエが入ってきた。
「あれー? ツカサじゃん!」
僕は、ずっと言えなかった言葉を、ツカサに耳打ちした。
「好きなら、言ってやれよ」

サンタクロースは、いつだって逡巡している。きみの幸せを願って。
どうぞ楽しいクリスマスを!

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HN:
水月さえ
性別:
女性
自己紹介:
本を読むのが好き。昼寝が好き。ドライブが好き。陶器屋や雑貨屋巡りが好き。アジアン雑貨ならなお好き。ビールはカールスバーグの生がいちばん好き。そして、スペインを旅して以来、スペイン大好き。何をするにも、のんびりゆっくりが、好き。
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