はりねずみが眠るとき

昼寝をしながら本を読み、ビールを空けて料理する日々
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本のなかに広がっていく視界

初めての仙台行きに向けて、伊坂幸太郎の短編を再読した。
恋愛がテーマのアンソロジー『I LOVE YOU』(祥伝社文庫)に収められた『透明ポーラーベア』
伊坂にしては珍しく、恋愛色の濃いストーリーだ。主人公の優樹は、22歳。転勤を間近に控え、恋人の千穂との遠距離恋愛は避けられない状況に、デートと言うには、ふたり不安定な気持ちのまま動物園を歩いていた。

そのなかにも、全体に漂う伊坂色は、色濃く出ている。
彼の文章の魅力の一つに、逆視点の面白さがある。例えば。

「ねぇ、蛙が爬虫類館にいるなんて、おかしいよね」千穂は何事にも規則や秩序を求める性格で、たとえば、緑黄色野菜の仲間に、人参が含まれること自体、あれは緑でも黄色でもないよね、と苛立つくらいだったので、承知しかねるという顔で、僕の脇腹を突いた。
仕方がなくて「この蛙もきっと、こっちを見て『人間って爬虫類じゃないよね。なんでここにいるんだよ』とか言ってんじゃないの」と応えた。

ストーリーとは無関係だが、伊坂っぽい! と、彼のファンを喜ばせてくれる文章だ。それからまた、鳥瞰視点の面白さも魅力である。
宇宙人が存在するならどうして姿を現さないのかという疑問への仮説として、地球を動物園に指定していて、外から観るだけに決められている、という話をふたりでする。そして、壁を見ているホッキョクグマを見ながら優樹が言う。

「壁を見ているホッキョクグマを、見ている富樫さんたち」
「を、見ているわたしたち」千穂が嬉しそうに言う。
「を、見ている宇宙人」僕が重ねると、千穂が爆笑した。
「を、見ている優樹君のお姉さん」「な」僕は当惑した。
「何で、そこで姉貴が出てくるんだ」

動物園で偶然会った、富樫さんは、行方不明になって3年経つ優樹の姉の元彼だ。彼らに出会ったその偶然。そして、人のつながりの不思議に、読み終えて胸が温かくなる短編に仕上がっている。
反対側から、あるいは外から、わたしは見ているだろうか。自分だけの方向からしか、見えていないものが多いんじゃないだろうか。真実を(例えば、シロクマは本当に白いのかとか)、きちんと見つめているだろうか。
『透明ポーラーベア』を久しぶりに読み、雨上がりに思いもよらず、深いブルーの空が眩しく見えたかのように、視界が広がっていくのを感じた。
  
このなかでの他におススメは、本田孝好『Sidewalk Talk』
「勝手なんだな、と二十歳の僕が笑う。
知らないの? と二十歳の彼女も笑う。女の子って勝手なのよ」
あー、いいなぁ、恋愛小説 ♪

はやぶさって青森まで行くんですね。乗り過ごさなくてよかった!

夕方、石田衣良を読んでいる途中、仙台駅に着きました。

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HN:
水月さえ
性別:
女性
自己紹介:
本を読むのが好き。昼寝が好き。ドライブが好き。陶器屋や雑貨屋巡りが好き。アジアン雑貨ならなお好き。ビールはカールスバーグの生がいちばん好き。そして、スペインを旅して以来、スペイン大好き。何をするにも、のんびりゆっくりが、好き。
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