はりねずみが眠るとき

昼寝をしながら本を読み、ビールを空けて料理する日々
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ペアの紅茶茶碗

誰かと思えば、紅茶茶碗の声だった。ティーカップと呼ぶには彼らは和の雰囲気をにじませていて、紅茶茶碗と呼ぶのが相応しく思える。

「もうすぐ、お別れだね」蓮の花が描かれた方。
「うん。きみの門出だね」雪の結晶が描かれた方。
娘はペアの紅茶茶碗の片方を、ひとり暮らしのスタートに持って行きたいと言った。毎朝彼女が紅茶を飲む時に、気に入って使っていた蓮の花。
「彼女がきみをずいぶんと気に入っている訳を、知ってる?」と、雪の結晶。
「うん。なんとなくね」と、蓮の花。
「きみの花とステッチの甘さの中にある、凛としたところに魅かれたのさ」
「そうだと、嬉しいけど。きみはよく、お父さんが使ってるよね?」
「うん。お父さんはいつも、ミルクたっぷりアールグレイ」
「お母さんは、アールグレイでもストレート」
「そして彼女は?」と、歌うように雪の結晶。
「ミルクたっぷりダージリン。寒い朝には、ほんの少しだけ砂糖を入れて温まって出かけるんだ」蓮の花が、何処か淋しそうに答えた。
「なんか、しんみりしちゃったね」
「春だもの。訳もなく泣きたくなることだってあるさ」
「でも、元気で」「うん。おたがいに」

彼らの声は、そこで聞こえなくなった。
ペアの紅茶茶碗達は、たぶんこれからも、たくさんのティータイムを演出してくれることだろう。雪の結晶は、我が家で。蓮の花は、娘の部屋で。

和物の雑貨屋で、何年か前に見つけたことを、なつかしく思い出します。
ペアカップとしてではなく、ひとつずつ売られていました。
ペアカップだったとしても、一つ一つは個と個なのかもしれません。

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HN:
水月さえ
性別:
女性
自己紹介:
本を読むのが好き。昼寝が好き。ドライブが好き。陶器屋や雑貨屋巡りが好き。アジアン雑貨ならなお好き。ビールはカールスバーグの生がいちばん好き。そして、スペインを旅して以来、スペイン大好き。何をするにも、のんびりゆっくりが、好き。
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