はりねずみが眠るとき
昼寝をしながら本を読み、ビールを空けて料理する日々
頭を振って、忘れつつ
「最近、忘れっぽくなって、やばい」夫が嘆いている。
会社を出る時に、あれやこれや忘れて取りに戻ることが多くなったそうだ。まあ、わたし達の年齢なら物忘れのひとつやふたつや30くらいは当然である。
「ほら、あれがさ」「うん、あれね」
ツーカーとも言えなくもない会話だが、ふたりして「あれ」なるものの名が思い出せず、しかし困ることもないので放っておく。まあ、わたし達の年齢なら、こんなことも当たり前だろう。だが、忙しい朝の出来事だった。
「行ってきまーす」夫が玄関で靴を履こうとしている。
「お父さん、鞄、忘れてるよ!」追いかけるわたし。
「あ」夫は二の句が継げず、ふたり苦笑いするよりなかった。財布も手帳も、パソコンだって入った七つ道具入りの鞄だ。サザエさんじゃないんだからと苦笑しつつ、しかしまあ、わたし達の年齢なら、許容範囲? だろうか。
わたしはもともと夫より遥かに忘れっぽい。だがら忘れっぽい人には寛容だ。
山本文緒の短編集『ブラック・ティー』(角川文庫)に収められた『ニワトリ』は、そんな意味合いでも大好きで、繰り返し読んだ小説。
主人公は、忘れっぽいを通り越し、様々なことを気にも留めず22歳まで暮らしてきた。それがある日、ルームシェアしている妹に言われる。子どもの頃から今までに、貸したのに返してもらってないものをあげ連ね、返してと。
「お姉ちゃんって、本当にニワトリね」
赤く染まった化粧パフをゴミ箱に放って、妹はぽつんと言った。私は湯飲みに伸ばした手を止める。
「脳みそがさ、ほんのちょっとしか入ってないんじゃないの。で、トサカ振ったとたんに、何もかも忘れちゃうのよ、きっと」
妹は今まで見せたことのない、大人の笑顔でそう言った。
落ち込んだ主人公は、恋人に会いに行こうと考えて、昨夜別れようと言われたんだったと思いだし愕然とする。しかしラストには思わぬ展開が待っていた。
頭を振って忘れつつ、生きていくくらいの方が丁度いいのかも。
「忘れることは人間の特技だ」とは何処のどなたの言葉でしたっけ。忘れた。
山本文緒、短編集コレクション。
『プラナリア』(文春文庫)は「無職」を巡る5つの短編。直木賞受賞作。
会社を出る時に、あれやこれや忘れて取りに戻ることが多くなったそうだ。まあ、わたし達の年齢なら物忘れのひとつやふたつや30くらいは当然である。
「ほら、あれがさ」「うん、あれね」
ツーカーとも言えなくもない会話だが、ふたりして「あれ」なるものの名が思い出せず、しかし困ることもないので放っておく。まあ、わたし達の年齢なら、こんなことも当たり前だろう。だが、忙しい朝の出来事だった。
「行ってきまーす」夫が玄関で靴を履こうとしている。
「お父さん、鞄、忘れてるよ!」追いかけるわたし。
「あ」夫は二の句が継げず、ふたり苦笑いするよりなかった。財布も手帳も、パソコンだって入った七つ道具入りの鞄だ。サザエさんじゃないんだからと苦笑しつつ、しかしまあ、わたし達の年齢なら、許容範囲? だろうか。
わたしはもともと夫より遥かに忘れっぽい。だがら忘れっぽい人には寛容だ。
山本文緒の短編集『ブラック・ティー』(角川文庫)に収められた『ニワトリ』は、そんな意味合いでも大好きで、繰り返し読んだ小説。
主人公は、忘れっぽいを通り越し、様々なことを気にも留めず22歳まで暮らしてきた。それがある日、ルームシェアしている妹に言われる。子どもの頃から今までに、貸したのに返してもらってないものをあげ連ね、返してと。
「お姉ちゃんって、本当にニワトリね」
赤く染まった化粧パフをゴミ箱に放って、妹はぽつんと言った。私は湯飲みに伸ばした手を止める。
「脳みそがさ、ほんのちょっとしか入ってないんじゃないの。で、トサカ振ったとたんに、何もかも忘れちゃうのよ、きっと」
妹は今まで見せたことのない、大人の笑顔でそう言った。
落ち込んだ主人公は、恋人に会いに行こうと考えて、昨夜別れようと言われたんだったと思いだし愕然とする。しかしラストには思わぬ展開が待っていた。
頭を振って忘れつつ、生きていくくらいの方が丁度いいのかも。
「忘れることは人間の特技だ」とは何処のどなたの言葉でしたっけ。忘れた。
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『プラナリア』(文春文庫)は「無職」を巡る5つの短編。直木賞受賞作。
HN:
水月さえ
性別:
女性
自己紹介:
本を読むのが好き。昼寝が好き。ドライブが好き。陶器屋や雑貨屋巡りが好き。アジアン雑貨ならなお好き。ビールはカールスバーグの生がいちばん好き。そして、スペインを旅して以来、スペイン大好き。何をするにも、のんびりゆっくりが、好き。
ご意見などのメールはこちらに midukisae☆gmail.com
(☆を@に変えてください)
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