はりねずみが眠るとき

昼寝をしながら本を読み、ビールを空けて料理する日々
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苦手なあいつ

「あっ、踏んじゃった!」
そーっとスリッパを持ち上げて胸を撫で下ろした。踏んづけたのは、猫柳の綿のような部分。何故に部屋のなかに猫柳? と思われるかもしれないが、今、薪ストーブの焚き付けに使っている枝が猫柳で、これがまたよく燃えるのだ。
何を踏んだと思ったのかと言えば、虫好きなわたしでも苦手な虫、独特の嫌な匂いを放つカメムシである。大きさ的に丁度同じくらいなのだ。

この季節、彼らはよく家のなかに入ってくる。洗濯物にくっつき、または、薪の隙間で眠っていたところを起こされ、部屋のなかをうろうろしたり飛び回ったりするのだ。殺すと匂いを放つので、いつも外に出す。
必殺技は、飛んでいるところに静かに箒を逆さに持ち、じっとしているというもの。すると必ずと言っていいほど、彼らは好んでそこにとまる。それを外に出て、振り落とすのみ。簡単である。

カメムシで思い出すのは、春に県外の大学に通いだした末娘だ。彼女はそんなことで思い出されていると知ったら、余りの不名誉に怒りあらわにするかも知れない。だが、普段はクールな彼女がカメムシを恐がる様子は、思い出すと微笑ましく、さいたまではカメムシ対策はどうしているのだろうかと、くつくつ笑いつつも心配にもなる。
娘はその名を呼ぶのも嫌だったらしく「あいつ」と呼んでいた。
たまに彼女が「あいつ」の悪口を言うのを耳にし、
「あ、今聞いてたかも、あいつ」そんな子どもだましな、わたしの脅しにも、
「ごめんなさい! どうか来ないでください」と、慌てふためき拝んでいた。
もう、虫程度のことじゃ、動じなくなっただろうか。否。あの嫌がり様はちっとやそっとじゃ治るまい。毎晩、拝みつつ眠っているかも知れない。

いやいや。末娘を思い出させるものは、もちろん「あいつ」だけではない。
彼女が好きな『不思議の国のアリス』(彼女は作者ルイス・キャロルの命日には黒い服を着る)や、恩田陸の小説、長芋のグレープシードオイル焼きや、プリン(高校の友人達に半嫌がらせで誕生日、教室の机に30個のプリンタワーを作られていた)、片方持って行ったペアの紅茶茶碗を見ても思い出す。
であるから「あいつ」を見てきみを思い出す母を、まあ、許してやってくれ。

猫柳の枝は、よく乾いていい焚き付けになりました。

この薪のなかに、いったい何匹の虫が眠っていることやら。

薪小屋の隣の紅葉の下は、綺麗に絨毯が敷かれていました。

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HN:
水月さえ
性別:
女性
自己紹介:
本を読むのが好き。昼寝が好き。ドライブが好き。陶器屋や雑貨屋巡りが好き。アジアン雑貨ならなお好き。ビールはカールスバーグの生がいちばん好き。そして、スペインを旅して以来、スペイン大好き。何をするにも、のんびりゆっくりが、好き。
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