はりねずみが眠るとき

昼寝をしながら本を読み、ビールを空けて料理する日々
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高菜は語る

「あ、高菜」と思った瞬間にオーダーしていた。ランチのパスタ。高菜とチキンのピリ辛風味。たまに出会う高菜は懐かしさをまとい、わたしを誘惑する。

初めての高菜漬けとの出会いは、バイト先の喫茶店でランチに出していた、高菜チャーハンだった。高菜とさつま揚げを炒め、卵を入れる。高菜の塩味だけで味付けしたチャーハンは、十代のわたしにはまだ足を踏み入れたことのない樹海のように、まるで知らない味だった。こんなに美味しいものがあるんだと驚いた。若かったなぁと思う。

そのバイトで忘れられないワンシーンがある。ミスをした。ランチのご飯を電気釜に移した時に保温するのを忘れたのだ。ミスしたのはわたしだが店のみんなが冷めたご飯をお客様に出さなくてはならなかった。落ち込んだ。さらに落ち込んだのは上司であるフロアをまとめる男性チーフが、わたしを責めなかったことだ。「怒ってるんだろうな。嫌だなぁ」チーフとわたしの間には気まずい雰囲気が漂っている。
「お疲れさまでした」挨拶して帰る時にも、わたしは下を向いていた。
チーフは、ランチタイムの喧騒が去った誰もいない店で珈琲を飲んでいた。
その時ふと感じた。彼は傷ついていると。わたしのミスだが、それに気づかなかった自分を責めている。小さなことだと思うかもしれないが、温かいご飯を出すのと冷めたご飯を出すのとでは天と地程の差があると、チーフもわたしも思っていたのだ。彼はわたしを怒っているわけじゃないのかも。逆に彼も、落ち込んでいるわたしにかける言葉を、うまく見つけられないだけなのかも。そう感じた瞬間、笑顔でチーフに話しかけていた。
「『サイモン&ガーファンクル』で、おススメのアルバムありますか?」
彼は珈琲カップをソーサーに戻し、笑顔をわたしに向けた。そして、大好きなアーティストのことを語り始めた。

高菜はわたしに語る。人と人とをつなぐ見えない糸の不思議を。相手が怒っていると決めつけてはいけないのだ。ただ同じように傷ついていることだってあるし、まったく違うことを考えていることだってある。表情や雰囲気からそれを読み取ることは難しい。だからこそ笑顔で話すことが重要なんだ、それが気持ちを伝えることになるんだと、19歳のわたしは学んだのだった。
ピリ辛というには辛さが足りませんでした。残念!
ランチセットメニュー、+パンとスープだと900円。単品だと1000円。
でも食べきれないのにセットを頼むのは嫌なので、単品で頼みました。
これっておかしいよねぇ。しかし友人いわく。
「そんなことじゃあ、大阪のおばちゃんにはなれないよ!」
いや、目指してないから。

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HN:
水月さえ
性別:
女性
自己紹介:
本を読むのが好き。昼寝が好き。ドライブが好き。陶器屋や雑貨屋巡りが好き。アジアン雑貨ならなお好き。ビールはカールスバーグの生がいちばん好き。そして、スペインを旅して以来、スペイン大好き。何をするにも、のんびりゆっくりが、好き。
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