はりねずみが眠るとき

昼寝をしながら本を読み、ビールを空けて料理する日々
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『火花』

今一番の話題作と言えるだろう。又吉直樹『火花』(文藝春秋)を、読んだ。
熱海で花火大会の夜、芸人、徳永は、師匠と慕うことになる神谷と出会った。徳永は二十歳、神谷は二十四歳。ふたりは、それぞれ芸人として活動しながら、飲んでは語り合った。以下本文、いくつかのシーンの神谷のセリフから。

「お前の行動の全ては既に漫才の一部やねん。漫才は面白いことを想像できる人のものではなく、偽りのない純正の人間の姿を晒すもんやねん。つまりは賢い、には出来ひんくて、本物の阿呆と自分は真っ当であると信じている阿呆によってのみ実現できるもんやねん」

「自分が漫才師であることに気づかずに生まれてきて大人しく良質な野菜を売っている人間がいて、これがまず本物のボケやねん。ほんで、それに全部気づいている人間が一人で舞台に上がって、僕の相方ね自分が漫才師やいうこと忘れて生まれて来ましてね、阿呆やからいまだに気づかんと野菜売ってまんねん。なに野菜売ってんねん。っていうのが本物のツッコミやねん」

「平凡かどうかだけで判断すると、非凡アピール大会になり下がってしまわへんか? ほんで、反対に新しいものを端から否定すると、技術アピール大会になり下がってしまわへんか? ほんで両方を上手く混ぜてるものだけをよしとするとバランス大会になり下がってしまわへんか?」

抜粋していて感じたのは、熱い芸人の物語なのだなあということだ。読んでいるときには、その熱さよりも、文章の新鮮さの方が勝ってしまっていた。

いちばん好きだったのは、神谷が失恋したと徳永に打ち明けたシーンだ。歩きながら、そして徳永は泣きながら、それでもふたりが話す言葉は、吹きだして笑ってしまうほどに漫才なのだ。「行動の全ては既に漫才の一部」との神谷の言葉を体現していて、ひどく切なくなった。笑うことと泣くことは、きっと何処かで繋がっているのだと感じる、とても素敵なシーンだった。

主人公、徳永と又吉を重ねてしまうことを、最後までやめられなかったが、今後も知ることのないだろう芸人の世界をのぞかせてもらったのだ。そこは、それもまたよしと納得するしかないだろう。いや、これ、駄洒落ではなく。

赤が印象的なカバーを外すと、黒地に金の模様が入っていました。
飛び散る火花のイメージかな。栞はエンジに近い色味の赤です。
タイトルは、漫才師達が競い合う世界の激しさを表したものでしょうか。
徳永が相方、山下と組むコンビ名は「スパークス」でした。

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HN:
水月さえ
性別:
女性
自己紹介:
本を読むのが好き。昼寝が好き。ドライブが好き。陶器屋や雑貨屋巡りが好き。アジアン雑貨ならなお好き。ビールはカールスバーグの生がいちばん好き。そして、スペインを旅して以来、スペイン大好き。何をするにも、のんびりゆっくりが、好き。
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