はりねずみが眠るとき

昼寝をしながら本を読み、ビールを空けて料理する日々
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『母性』

湊かなえの『母性』(新潮文庫)を、読んだ。
帯には「事故か、自殺か、殺人か」とある。17歳の娘が倒れているのを、母親が発見したという新聞記事から始まるミステリーだ。
交互に語られる「母親の手記」と「娘の回想」から、母に愛され母を偏愛した女が、娘を愛する「母性」に欠けていたことが浮き彫りになっていく。
以下本文から。

からだが分裂してしまいそうな痛みに耐えたあと、かん高い声でギャーギャーと泣く赤紫色のかたまりを顔の横に近付けられ、「おめでとうございます。元気な女の子ですよ」と言われても、それがどうしたのだ、としか感じませんでした。上質な作品とは言い難い、しわくちゃで鼻の低いぶさいくな顔で、これでは母ががっかりしてしまうのではないかと涙がでそうになったくらいです。
「パパも今呼びますからね」
看護婦にそう言われて、「パパ」とは誰のことだろう、と一瞬考えました。田所は両親を「親父、おふくろ」と呼び、私は「お父さん、お母さん」と呼びます。子どもが生まれるからといって、互いを「パパ、ママ」だのと呼び合ったことはありません。子どもにどう呼ばせるかと、二人で相談したこともありませんでした。自分と同じように「お父さん、お母さん」と呼ばせるのだろうと漠然と考えていたのですが、ふと、それはイヤだ、と思いました。お母さん、などと呼ばれたくない。私にとって「お母さん」という言葉は、愛する母ただ一人のためにあるのだから。

母親になったすべての女性に「母性」が芽生える訳じゃない。
「母性」について調べていく中学校教師が登場するのだが、彼女はそう言い切っている。わたし自身「母性」なるものがあったのだろうかと考えると、判らない。子ども達を愛して育てたとは思っているが、それが「母性」から来たものなのかどうなのかは知りようもないし、ただでさえパーソナルスペースが広いわたしは、子ども達とも一定の距離を保ち暮らしてきたように思う。
人間の動物的な部分が退化し「母性」も失われつつあるのだろうか。
虐待されている疑いで通告された児童数が3万人を超えたと、数日前に報じられていた。そういうことを含め「母性」あるいは「無償の愛」とは何なのだろうと深く考えさせられた。

友人が、読み終わったからと回してくれた文庫本です。
友人と本の話ができるのも、本好きならではの楽しみです。

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HN:
水月さえ
性別:
女性
自己紹介:
本を読むのが好き。昼寝が好き。ドライブが好き。陶器屋や雑貨屋巡りが好き。アジアン雑貨ならなお好き。ビールはカールスバーグの生がいちばん好き。そして、スペインを旅して以来、スペイン大好き。何をするにも、のんびりゆっくりが、好き。
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