はりねずみが眠るとき
昼寝をしながら本を読み、ビールを空けて料理する日々
『夕子ちゃんの近道』再考
昨日、音にまつわる記憶の不思議をかいたが、最近読んだ本で、主人公が、何だか判らない音「海猫の鳴き声」に思いを馳せるシーンが効果的に使われていたのを思い出した。長嶋有の連作短編『夕子ちゃんの近道』だ。
この小説は、最近読んだ小説のなかでは自分的に久々の大ヒットだった訳だが、大ヒットだと気づかぬうちに読み終えてしまうような、ぼんやりとした雰囲気を持っている。しかし読み終えてからじわりじわりと、そのよさが押し寄せてくるのを感じ、ページをめくっては、ほーっとため息をつくような大切な一冊となった。
その素敵さの一つに、日々の生活に散りばめられた謎解きがある。主人公が毎朝聞く、その音も、ラスト近くになってようやく明かされる小さな謎だ。
それは、ミステリーという言葉が似合わぬ謎で、明かされずともぼんやりとした雰囲気のなかに馴染んでしまうような類のものだった。「この音、何だろう?」と思いつつも、無論推理したりせず、読み進めていくうちに忘れてしまうくらいのものなのだ。だが、書き手が意識して謎を散りばめたのは、明確だ。その音についても、忘れた頃に繰り返し登場する。どんでん返しのミステリーの「やられた!」感とはまた別の「やられた!」が、これもやはりじわりじわりと押し寄せてきた。
日常に散りばめられた「あれ?」や「これ、何だろう?」は現実にも多々あるのだろうが、気づかぬうちに通り過ぎてしまうことが多いのだと思う。そんな「あれ?」を見過ごさずに暮らしていけたら、同じ時間を過ごしていても、全く違ったものになるに違いない。そんな風に暮らしていけたらと、思うのだ。
再読しながら、飲みたくなるのはワインかな。以下本文から。
「じゃあ君、わたしの子供つくってくれる」えっと言った後で、あーはいと言ってしまう。「本当かなあ」瑞枝さんは首を動かして僕の方を向いて笑った。いつもはもっと大げさに笑うから、やはり熱があるのだ。「でもありがとう。君はつくづく背景みたいに透明な人だね」意味が分からなかったが、そう言われて後ろを振り向いてみた。バンカーズランプの明かりが僕の影も大きく襖障子に映している。
アップにしないと見えないほど控えめにタイトルを置いた文庫の装幀です。
これはイタリア産のゴルゴンゾーラチーズですが、
小説のなかには、フランス人、フランソワーズとパリも登場します。
この小説は、最近読んだ小説のなかでは自分的に久々の大ヒットだった訳だが、大ヒットだと気づかぬうちに読み終えてしまうような、ぼんやりとした雰囲気を持っている。しかし読み終えてからじわりじわりと、そのよさが押し寄せてくるのを感じ、ページをめくっては、ほーっとため息をつくような大切な一冊となった。
その素敵さの一つに、日々の生活に散りばめられた謎解きがある。主人公が毎朝聞く、その音も、ラスト近くになってようやく明かされる小さな謎だ。
それは、ミステリーという言葉が似合わぬ謎で、明かされずともぼんやりとした雰囲気のなかに馴染んでしまうような類のものだった。「この音、何だろう?」と思いつつも、無論推理したりせず、読み進めていくうちに忘れてしまうくらいのものなのだ。だが、書き手が意識して謎を散りばめたのは、明確だ。その音についても、忘れた頃に繰り返し登場する。どんでん返しのミステリーの「やられた!」感とはまた別の「やられた!」が、これもやはりじわりじわりと押し寄せてきた。
日常に散りばめられた「あれ?」や「これ、何だろう?」は現実にも多々あるのだろうが、気づかぬうちに通り過ぎてしまうことが多いのだと思う。そんな「あれ?」を見過ごさずに暮らしていけたら、同じ時間を過ごしていても、全く違ったものになるに違いない。そんな風に暮らしていけたらと、思うのだ。
再読しながら、飲みたくなるのはワインかな。以下本文から。
「じゃあ君、わたしの子供つくってくれる」えっと言った後で、あーはいと言ってしまう。「本当かなあ」瑞枝さんは首を動かして僕の方を向いて笑った。いつもはもっと大げさに笑うから、やはり熱があるのだ。「でもありがとう。君はつくづく背景みたいに透明な人だね」意味が分からなかったが、そう言われて後ろを振り向いてみた。バンカーズランプの明かりが僕の影も大きく襖障子に映している。
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HN:
水月さえ
性別:
女性
自己紹介:
本を読むのが好き。昼寝が好き。ドライブが好き。陶器屋や雑貨屋巡りが好き。アジアン雑貨ならなお好き。ビールはカールスバーグの生がいちばん好き。そして、スペインを旅して以来、スペイン大好き。何をするにも、のんびりゆっくりが、好き。
ご意見などのメールはこちらに midukisae☆gmail.com
(☆を@に変えてください)
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