はりねずみが眠るとき
昼寝をしながら本を読み、ビールを空けて料理する日々
『ワン・モア』
桜木紫乃の短編連作『ワン・モア』(角川文庫)を、読んだ。
帯には「人生っていいね。って言いたくなる・・・。みんなつらいことはあるけれど立ち直れる」とある。タイトルの「もう一度」の意味合いそのままに、登場人物達はあきらめてしまいそうになるぎりぎりのところで、その先へと行ってみようとする。もう一度だけ、やってみようと。
余命を宣告された開業内科医の鈴音は、別れた夫とよりを戻そうとし、安楽死事件を起こし失墜した元同僚の美和は、鈴音を生かすために鈴音のあとを継ぐ決意をする。患者、赤沢への思いを最後の恋だと感じ戸惑う看護婦、浦田寿美子。鈴音を思い続ける放射線技師、八木。病院にDV患者を担ぎ込んだ本屋の店長、佐藤などが短編の主役として脇役を固める。
鈴音は、自分の分身のように可愛がっているミニチュアシュナウザー犬、リンに子どもを産ませることにした。5匹のうちの1匹は自分が、あとの4匹は幸せな人に里親となってもらおうと決めて。以下本文から。
だいたい一週間あれば、と泣きながら思っていた。そのくらいの時間があれば浮上できる。経験則だ。赤沢はどうだろうか。似たようなものだろうと思えば間違いはなさそうだ。みんな、通り過ぎていく。リンが今抱えているお産の痛みも同じなのだろう。
居間がしんと凪いだ気配に包まれた。短く荒い呼吸を繰り返し、リンは一匹目の子犬を産んだ。深い息をひとつ吐いて舌先で胎盤を破る。みな、新しい命に釘付けだった。
「あぁ、男の子だ」
母となったリンに舐められながら、ころりとした黒い塊がちいさくあくびをした。どれどれと美和が産箱に近づいてきた。居間全体が、言葉にならない温かいもので包まれていた。リンは「くぅん」と細く鳴いたあと、十分ほどかかって二匹目の子犬を産み落とした。今度はプラチナホワイトのメスだった。
鈴音が「わぁ」と言って喜んでいる。
「白衣の天使みたいだ。浦田さん、この子どう?」
「ありがとうございます。この子にします」
寿美子は産箱の中でリンに舐められている白い子犬を見た。
長く生きていると、あきらめてしまった方が楽だと思えることが、ことのほか多いと気づく。だけど、もう一度だけ。そんな思いが詰まった小説だった。
『ホテルローヤル』で直木賞を受賞する2年前にかかれた小説です。
解説、北上次郎は、
「ここから桜木紫乃の第2ステージが始まっていく」と絶賛していました。
帯には「人生っていいね。って言いたくなる・・・。みんなつらいことはあるけれど立ち直れる」とある。タイトルの「もう一度」の意味合いそのままに、登場人物達はあきらめてしまいそうになるぎりぎりのところで、その先へと行ってみようとする。もう一度だけ、やってみようと。
余命を宣告された開業内科医の鈴音は、別れた夫とよりを戻そうとし、安楽死事件を起こし失墜した元同僚の美和は、鈴音を生かすために鈴音のあとを継ぐ決意をする。患者、赤沢への思いを最後の恋だと感じ戸惑う看護婦、浦田寿美子。鈴音を思い続ける放射線技師、八木。病院にDV患者を担ぎ込んだ本屋の店長、佐藤などが短編の主役として脇役を固める。
鈴音は、自分の分身のように可愛がっているミニチュアシュナウザー犬、リンに子どもを産ませることにした。5匹のうちの1匹は自分が、あとの4匹は幸せな人に里親となってもらおうと決めて。以下本文から。
だいたい一週間あれば、と泣きながら思っていた。そのくらいの時間があれば浮上できる。経験則だ。赤沢はどうだろうか。似たようなものだろうと思えば間違いはなさそうだ。みんな、通り過ぎていく。リンが今抱えているお産の痛みも同じなのだろう。
居間がしんと凪いだ気配に包まれた。短く荒い呼吸を繰り返し、リンは一匹目の子犬を産んだ。深い息をひとつ吐いて舌先で胎盤を破る。みな、新しい命に釘付けだった。
「あぁ、男の子だ」
母となったリンに舐められながら、ころりとした黒い塊がちいさくあくびをした。どれどれと美和が産箱に近づいてきた。居間全体が、言葉にならない温かいもので包まれていた。リンは「くぅん」と細く鳴いたあと、十分ほどかかって二匹目の子犬を産み落とした。今度はプラチナホワイトのメスだった。
鈴音が「わぁ」と言って喜んでいる。
「白衣の天使みたいだ。浦田さん、この子どう?」
「ありがとうございます。この子にします」
寿美子は産箱の中でリンに舐められている白い子犬を見た。
長く生きていると、あきらめてしまった方が楽だと思えることが、ことのほか多いと気づく。だけど、もう一度だけ。そんな思いが詰まった小説だった。
『ホテルローヤル』で直木賞を受賞する2年前にかかれた小説です。
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HN:
水月さえ
性別:
女性
自己紹介:
本を読むのが好き。昼寝が好き。ドライブが好き。陶器屋や雑貨屋巡りが好き。アジアン雑貨ならなお好き。ビールはカールスバーグの生がいちばん好き。そして、スペインを旅して以来、スペイン大好き。何をするにも、のんびりゆっくりが、好き。
ご意見などのメールはこちらに midukisae☆gmail.com
(☆を@に変えてください)
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