はりねずみが眠るとき

昼寝をしながら本を読み、ビールを空けて料理する日々
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『すべてがFになる』

その話をすると、末娘は、顔をしかめた。
「知ってるよ。観ないけど」ぶっきらぼうに、言う。
森博嗣の推理小説『すべてがFになる』(講談社文庫)ドラマ化の話である。
彼女は、高校時代から、この『すべてがFになる』から始まるシリーズのファンだったのだ。
主人公、犀川創平と西之園萌絵のイニシャルから名づけられたS&Mシリーズは10冊あり、その他にシリーズの関連人物が登場するVシリーズも10冊。Fで登場する天才、真賀田四季を主人公としたものが春夏秋冬、4冊ある。
そのすべてを読み、心酔していた。彼女の話のなかには、まるで友人の話でもするかのように「犀川先生がね」「萌絵がね」と、二人の名が登場するので、ついにわたしも、シリーズ1冊目『すべてはFになる』を読んだのだった。娘と同じ本を読み、その話をするのは楽しいものだ。

主人公達は、工学部建築学科の助教授と、その学生。理系な二人である。
萌絵が16歳の時、彼女の両親は死んだ。飛行機が着陸寸前に墜落し、空港で待っていた萌絵は、目の前で両親を亡くしたのだ。そのせいか彼女は人の死に鈍感になっていて、様々な殺人事件に首を突っ込み、理系的な発想を効かせ、推理を重ねるという設定。その萌絵の推理も、犀川にはかなわないのだが。

末娘が特に気に入っていて、何度も話してくれたエピソードがある。
萌絵の父親が大学教授だった頃、犀川は学生で、その授業をとっていた。
初めて西之園教授の授業を受けた時「予習をしてきたか?」と聞かれ、犀川が代表する形で「していない」と答えた。すると「じゃあ、来週までに1章の予習をしてくること」と言って、教授は教室から出て行った。次の週、予習をしていくと「わからないところはなかったか」と聞かれたが、誰も質問をしなかった。教授は「わかっているのなら、私にできることはもうない」と、教室を出て行った。犀川は、必死に予習をして、次の週、質問した。すると教授は、4週分の授業をかけて、犀川に質問に答え、4週目に学生達に向け「次の質問はないか」と言ったのだという。

「こんな先生が、いたらいいのになぁ」
文系に進んだが、数学が得意であり好きだった彼女は、うっとりと言ったものだった。そんな彼女にしたら、売れ線俳優起用のドラマ化に、いい顔できる訳がない。しかし、1冊しか読んでいないわたしは、ドラマ化の恩恵に預かり、S&Mシリーズを楽しんでいる。娘と同じ本を読むのは楽しいが、何しろ、森博嗣の本は分厚い。文庫のくせして、どうしてこんなに重いの? と文句を言われる作家の一人だろう。それで、手が出せなかったのだ。もう一人の分厚い文庫代表である京極夏彦も、娘はやはり読んでいて、わたしはそれを遠くから眺め、まあこっちはドラマ化しないでやってくださいと、ただ祈っている。

ドラマ仕様のカバーが、上に被せてありました。
主演の二人は、わたし的には、適役だと思います。
レゴブロックの装幀、シンプルでかっこいいですね。
読み直してみて、あらためて人物描写の面白さに、気づきました。

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HN:
水月さえ
性別:
女性
自己紹介:
本を読むのが好き。昼寝が好き。ドライブが好き。陶器屋や雑貨屋巡りが好き。アジアン雑貨ならなお好き。ビールはカールスバーグの生がいちばん好き。そして、スペインを旅して以来、スペイン大好き。何をするにも、のんびりゆっくりが、好き。
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