はりねずみが眠るとき

昼寝をしながら本を読み、ビールを空けて料理する日々
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トイレの窓

トイレの窓に、庭のミントの葉を飾った。銅でできた一輪挿しを買い、草花を飾りたくなったのだ。

久しぶりに小さな模様替えをして、思い出したことがある。
13年前の今頃の季節のことだ。
越して来た建てたばかりの家には、驚くことに玄関のドアさえ付いていなかったが、3日ほどでそのドアは取り付けてもらった。しかし、障子や引き戸など、部屋の中の扉類は付いていないものも多く、風呂も使えず、新築の家特有の冷たさに、身も心も冷え切ってしまった。
夫は東京までの通勤に、子ども達は新しい学校での環境に慣れるのに精一杯。わたしはわたしで、大工さん、左官屋さん、建具屋さんが作業する家で引っ越しの荷物を片づける毎日。がんばらねばと思いつつも心労はたまっていった。
「疲れたなぁ」
誰もいない時間に、ホッとしたのか、ふいに涙がこぼれた。
「だめだ、だめだ。もうすぐ子ども達が帰ってくる」
涙を拭き、何気なく入ったトイレで、わたしは、あっと声を上げた。トイレの窓が青くキラキラと光っていたからだ。綺麗だった。世の中にこんな綺麗なものがあったのかと思うほど美しく、何も考えずしばし見とれていた。それから窓を開け、その青いものの正体を見て笑った。材木に被せた工事用のブルーシートに、ただ太陽が反射していただけだったのだ。

トイレの窓とブルーシートは、教えてくれた。綺麗だと感じる心があれば、いくらでも綺麗なものを見つけられること。可笑しいと思える気持ちがあれば、どんなに疲れていても笑えること。
4月頭に越してきて、家が完成したのは7月に入ってからだった。あの一瞬があったからがんばれたのだと、今でもトイレの窓を見ると、ふと思い出す。

薪ストーブも作るという、熊本に住む金属製品の作家さんの作品です。
銅製なので、ずしりと重く安定しています。
ドライフラワー化した南天を、アクセントに。


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HN:
水月さえ
性別:
女性
自己紹介:
本を読むのが好き。昼寝が好き。ドライブが好き。陶器屋や雑貨屋巡りが好き。アジアン雑貨ならなお好き。ビールはカールスバーグの生がいちばん好き。そして、スペインを旅して以来、スペイン大好き。何をするにも、のんびりゆっくりが、好き。
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