はりねずみが眠るとき

昼寝をしながら本を読み、ビールを空けて料理する日々
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それはとても幸せなこと

びっきーの水が初めて凍った朝、お米のおばあちゃんが庭にやって来た。毎年お米を買っている田んぼのおばあちゃんだ。
「今朝は凍ったねぇ」「冷えましたよねぇ」
おばあちゃんは、大根が4本入った袋をウッドデッキに置いた。小さなからだ、細い腕の何処にあんな力があるのかと思うが、鍛え方が違うのだろう。寒くなったが毎日畑に出ているのを見かける。
「ありがとうございます。りっぱな大根ですね!」「今抜いて来たから」
おばあちゃんは、笑顔と大根を残し、のんびりと走る黄色いスクーターで坂を下って行った。お米のおばあちゃん。12年前にも90歳、超えてるかなと思っていたけれど、ずっと変わらないなぁ。変わらず元気だ。
 
「鶏肉もあるし、今夜は大根の煮物だな」
新鮮なうちに下ろしでも食べよう。ホタテ缶と合わせてサラダにしてもいいな。葉っぱはさっと茹でてちりめんと一緒に胡麻油で炒めようか。大根だけで夕飯ができちゃうな。
凍った畑から来たばかりの大根は、ひんやり冷たくずっしり重かった。
「大きな根っこかぁ。確かに」
それにしても綺麗な大根だ。わたしはしばし見とれていた。ここに越してきて野菜の美しさを知った。大根は切ると瑞々しく透明感のある白で、首の部分はほんのり緑がかっている。水分をたっぷり含んだ新鮮な大根ならではの美しさに、そう言えばこの町の名産は大根だったと思い出す。お米もどの野菜も美味しくて忘れがちだが、そう。ここは、向日葵と林檎と大根の町なのだ。
「大根がいつでもある。それはとても幸せなこと」
これはその昔、川崎に住んでいた頃、わたしが夫に言った言葉だ。まったくその通りだねと、夫もうなずいた。ふたりともひとりで暮らしていた頃には大根など買わなかった。しかし結婚し家族ができ、日本酒の肴にしらすを乗せた大根下ろしを食べたいと夫が言った時のために、サラダのために、煮物のために、朝の味噌汁のために、大根を常備するようになった。そして今、大根の町に住んでいる。もちろん大根が名産だからと越して来たわけではないのだが。
冬。今年も、おでんや大根の煮物で温まる日が多くなりそうだ。

町の温泉宿の敷地で、毎年11月3日に「大根祭り」があります。
神奈川や東京から来る人もいて、この日に限り道は渋滞。
露店もいろいろ出て、青空の下でカラオケ大会などもありますが、
畑で大根を抜いて持ち帰るのが人気のようです。

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HN:
水月さえ
性別:
女性
自己紹介:
本を読むのが好き。昼寝が好き。ドライブが好き。陶器屋や雑貨屋巡りが好き。アジアン雑貨ならなお好き。ビールはカールスバーグの生がいちばん好き。そして、スペインを旅して以来、スペイン大好き。何をするにも、のんびりゆっくりが、好き。
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