はりねずみが眠るとき

昼寝をしながら本を読み、ビールを空けて料理する日々
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観覧車みたいな木

埼玉の大学に通う末娘が、正月に帰省し、再び埼玉に帰る道で、つぶやいた。
「あの木、観覧車みたいだねぇ」
枝を丸く綺麗に伸ばした木が、運転席からも見える。しかし、見飽きるほど通った道でのことである。これまで彼女の目には、あの木は『観覧車みたい』ではなかったのだろう。それが都会に出て、大きく枝を伸ばした木を見ることよりも、観覧車を見かけることの方が多くなったのかも知れない。
少し淋しい気持ちで「そう言われれば、そうだねぇ」と答えた。
山や森や木を見て育った彼女は、もしかすると観覧車を初めて見た時『大きな木みたい』だと思ったかも知れない。それが今、逆転したということか。いや、彼女の『センス・オブ・ワンダー』は、きっと彼女のなかに残っている。木を見て『観覧車みたい』と思う感性もまた、面白いではないか。

帰省した際「貸して」と言い、彼女はわたしと夫の本棚から村上春樹の『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』と『1Q84』を持ち出した。そして『世界の終り』は、ほぼ1日で読了し「ありがとう」と、本棚に収めた。それを久しぶりに開いてみると、素敵に面白い比喩達が歓迎してくれた。

「入院したことはある?」「ない」と私は言った。私はだいたいにおいて『春の熊のように』健康なのだ。

誰も私の眠りをさまたげることはできない。私はトラブルの衣にくるまれた絶望の王子なのだ。『フォルクスワーゲン・ゴルフくらいの大きさの』ひきがえるがやってきて私に口づけするまで、私はこんこんと眠りつづけるのだ。

聴いているだけで神経が擦り減ってしまいそうだった。私は首をぐるぐるとまわしてから、ビールを喉の奥に流しこんだ。胃は『外まわりの銀行員の皮かばんみたいに』固くなっている。

まさかとは思ったが、私が二本食べた他は彼女がたいらげた。『重機関銃で納屋をなぎ倒すような』すさまじい勢いの食欲だった。

村上春樹的に言うとすれば『木のような観覧車』より断然『観覧車みたいな木』の方が、ぴったりくる。彼女のこの何気なくつぶやいた比喩は、村上春樹に影響されただけだったのかも、とふと考えた。

国道141号を韮崎に向かう道、左側の木のことです。

昨日は、所用の帰りに通った道で、野焼きをしていました。

野焼き。村上春樹なら、どんな比喩で表現するんでしょう。

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HN:
水月さえ
性別:
女性
自己紹介:
本を読むのが好き。昼寝が好き。ドライブが好き。陶器屋や雑貨屋巡りが好き。アジアン雑貨ならなお好き。ビールはカールスバーグの生がいちばん好き。そして、スペインを旅して以来、スペイン大好き。何をするにも、のんびりゆっくりが、好き。
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