はりねずみが眠るとき

昼寝をしながら本を読み、ビールを空けて料理する日々
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真っ青なポロを見かけて思うこと

真っ青なポロを見かけた。
「あ、小鳥ちゃん」わたしのバイブルを思い浮かべる。
江國香織の小説『ぼくの小鳥ちゃん』(あかね書房)だ。
主人公ぼくのガールフレンドの愛車が真っ青なポロ。初めて小鳥ちゃんを読んだ時には知らなかったが、今はポロがフォルクスワーゲンのスマートな車だと知っている。できれば車を買い替える際ポロに乗りたかったが、やっぱ燃費だよねと、フィットハイブリッドを買った。それでもポロを見かけるたびに「あ、小鳥ちゃん」と思ってしまう。
 
ぼくによれば―ポロに乗るタイピストのガールフレンドは、タイピングの腕が一流なだけでなく、料理も整理整頓もほころびを縫うのもとても上手で、能力を問われるおよそありとあらゆることに、その才能を発揮する。
そんなぼくの部屋に、冬の朝小鳥ちゃんはやって来た。ぼくが窓際でミルクコーヒーを飲んでいる時に(決してカフェオレではなく)不時着。そんな感じで。プライドが高く口が悪く、それでも甘え上手な―たぶん白い文鳥の、小鳥ちゃん。
ぼくによれば―小鳥ちゃんはしりとりが好きだ。退屈するとすぐにしりとりをしたがる。小鳥ちゃんのしりとりはおわらない。「ん」がついてもいいルールなのだ。海、と小鳥ちゃん。三日月、とぼく。きんかん、と小鳥ちゃん。カンボジア、とぼく。あるいはいきなり、ごはん、と小鳥ちゃん。ハンカチ、とぼく。ず-っと続くのが好きなのと小鳥ちゃんは言う。「それに、言っちゃいけない言葉があったりしたら、気になってどきどきしちゃうでしょう?」「それがおもしろいんじゃないか」と言うぼくに小鳥ちゃんは言い放つ。「悪趣味」
ぼくと小鳥ちゃん。そしてガールフレンド。三角関係ともいえない三つの点。世界は冬で部屋の中は温かい。ぼくの部屋にはガールフレンドとの写真が置いてあって、彼女がやってくるたびに小鳥ちゃんは写真立てをぱたんと倒す。それがいつも通りの風景で微笑ましくもある。
ある時はスケートをしたがり、ある時は病気だと言い張って薬(ラム酒をかけたアイスクリーム)をねだり、そしていつでも洗濯機がぐるぐる回るのを眺めるのが好きな小鳥ちゃん。それをひとつひとつ大切に受け入れていくぼく。
一緒に暮らすふたりの距離として、ぼくと小鳥ちゃんの関係がわたしは好きだ。気遣いながらもわがままを言い、悪態をついたかと思えば思いやる。車も運転できず何の取り柄もない不器用なぼくだが、小鳥ちゃんが彼をルームメイトに選んだのがよくわかる。
 
この間、オーストラリアの娘と久しぶりにスカイプでしゃべった。ハウスメイトとも仲良く楽しくやっているようだった。彼女は人との距離の取り方が上手くシェアハウスで暮らすのには向いているようだ。それでも日々穏やかにとはいかないだろう。
真っ青なポロを見かけて、ぱたんと音を立てて写真立てを倒す小鳥ちゃんを思い、娘を思った。

娘からのバースディプレゼントの写真立てはレトロなタイプライター形
今のところぱたんと倒す小鳥ちゃんは現れない

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HN:
水月さえ
性別:
女性
自己紹介:
本を読むのが好き。昼寝が好き。ドライブが好き。陶器屋や雑貨屋巡りが好き。アジアン雑貨ならなお好き。ビールはカールスバーグの生がいちばん好き。そして、スペインを旅して以来、スペイン大好き。何をするにも、のんびりゆっくりが、好き。
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