はりねずみが眠るとき

昼寝をしながら本を読み、ビールを空けて料理する日々
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『猫を抱いて象と泳ぐ』

小川洋子の長編『猫を抱いて象と泳ぐ』(文春文庫)を、読んだ。小川洋子の小説は何冊か読んでいるが、こんなに美しいと感じた小説は初めてだ。

主人公は、チェステーブルの下に潜り人形の身体を借りてチェスを指す、リトル・アリョーヒン。彼は、11の歳に大きくなることをやめた。それは、チェステーブルに潜り込むためであり、いくつかの出来事から深く胸に刻み込まれた言葉「大きくなること、それは悲劇である」からくる恐怖によるものでもあった。その出来事の一つに、デパートの屋上で大きくなりすぎて生涯そこから降りることができなかった象のインディラの存在がある。リトル・アリョーヒンは、チェスの駒の一つ、象を祖先に戴く斜め移動の孤独な賢者、ビショップにインディラを重ね、チェスを愛し、小さな身体のままで生きていく。
この小説の魅力の一つは、駒の動きの描写の美しさにある。以下本文から。

ビショップが対角線を鋭くにらんだり、ナイトが気紛れな妖精の舞を踊ったりするたびに拍手を送った。孫の指した手でも老婆令嬢の手でも同じだった。祖母は両方の駒を平等に褒め称えた。
そんななか、リトル・アリョーヒンは12手め、c6と指した。今度はどんな様相が現れるかと胸を膨らませて待っていた祖母は、ポーンが思慮深く、慎ましやかに一歩だけ前進したのを見て、緊張感のこもった吐息を漏らした。まさに祖母の感じた緊張感は正しかった。それは彼にとっての特別な駒、d6のビショップにc7の退路を用意し、対角線のにらみを保持するための手だった。

チェスを深く深く愛したリトル・アリョーヒン。彼はチェスの駒を動かすのと同じように、人に対しても、投げやりだったり考えなしな手を打つことは決してなかった。そして彼は常に寡黙で、じっくりと一手一手考えるようなその丁寧な生き方を雄弁に語るのは、彼が残したチェスの棋譜(きふ)だけだった。

チェスというよりサーカスを連想させる、シックな表紙。
解説は、俳優の山崎努さんがかいています。
感化され、ネットでチェス指してみましたが、むむむ難しすぎる・・・。

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HN:
水月さえ
性別:
女性
自己紹介:
本を読むのが好き。昼寝が好き。ドライブが好き。陶器屋や雑貨屋巡りが好き。アジアン雑貨ならなお好き。ビールはカールスバーグの生がいちばん好き。そして、スペインを旅して以来、スペイン大好き。何をするにも、のんびりゆっくりが、好き。
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