はりねずみが眠るとき
昼寝をしながら本を読み、ビールを空けて料理する日々
『姫椿』
浅田次郎の短編集『姫椿』(文春文庫)を、読んだ。
ずいぶん前に何冊か読んだだけの作家だが、最近読んだ『見知らぬ妻へ』に魅せられて、短編集を選んで読んでいる。
裏表紙の紹介文には「凍てついた心を抱えながら日々を暮す人々に、冬の日溜りにも似た微かなぬくもりが、舞い降りる」とある。
1話目の『獬(xie)』は、シエと読むのだが、善悪を見分けるという幻の動物が登場するファンタジー。そこから順番に読み始めたから余計にそう感じたのかも知れないが、どの話にも不思議テイストを感じた。
表題作『姫椿』は、倒産寸前の不動産屋の社長、高木が、家族に保険金を残すために死に場所を探して若い頃住んでいた街を歩く。そこにあったのは、昔通った銭湯「椿湯」だった。以下本文から。
「山茶花なのに、椿湯ですか」
「そう。いつだったか私も同じことをおやじさんに訊いたのですがね。これは山茶花なんぞじゃねえ、姫椿ってえんだ、と言い張るのですよ。姫椿も山茶花も同じだと思うのですがね、私は」
厚い垣根に、たわわな紅を灯す花を見るうちに、わけもなく高木の胸は詰まった。すべてを忘れてしまった。生きるために記憶を淘汰したのではない。金と欲にまみれた時代の向こう側に、すべての記憶を置き去りにしてきた。
「貧乏はしていましたが、辛くはなかったんです。どうして楽しかったことまで忘れたんだろう」
さあ、と長寿の老人は縁先の椅子から立ち上がり、小さな星空を摑むような背伸びをした。
「楽しいことが多すぎるのではありませんか。今の若い人の悩みはたいがいそんなところです。贅沢ですな」
高木は、まだ恋人だった妻と昔「椿湯」に通ったことを思い出す。姫椿の花を手折り、濡れ髪に挿してあげたことを。取り戻したそのひとひらの記憶が、たぶん彼を救うことになる。現実は、厳しく続いていくのだろうが。
読み終えて、誰かを思う気持ちが希望の光を手繰り寄せるのかも知れないなあと、不思議テイストの世界に落ちたように考えてしまうような短編集だった。
『姫椿』の高木の妻でしょうか。それとも『永遠の緑』のみどりかな。
山茶花には別名が3つあるそうです。ひとつは、姫椿(ヒメツバキ)
そして、岩花火(イワハナビ)、藪山茶花(ヤブサザンカ)
凍える季節に咲く花に、希望を見出そうとするのが人、なのかも。

ずいぶん前に何冊か読んだだけの作家だが、最近読んだ『見知らぬ妻へ』に魅せられて、短編集を選んで読んでいる。
裏表紙の紹介文には「凍てついた心を抱えながら日々を暮す人々に、冬の日溜りにも似た微かなぬくもりが、舞い降りる」とある。
1話目の『獬(xie)』は、シエと読むのだが、善悪を見分けるという幻の動物が登場するファンタジー。そこから順番に読み始めたから余計にそう感じたのかも知れないが、どの話にも不思議テイストを感じた。
表題作『姫椿』は、倒産寸前の不動産屋の社長、高木が、家族に保険金を残すために死に場所を探して若い頃住んでいた街を歩く。そこにあったのは、昔通った銭湯「椿湯」だった。以下本文から。
「山茶花なのに、椿湯ですか」
「そう。いつだったか私も同じことをおやじさんに訊いたのですがね。これは山茶花なんぞじゃねえ、姫椿ってえんだ、と言い張るのですよ。姫椿も山茶花も同じだと思うのですがね、私は」
厚い垣根に、たわわな紅を灯す花を見るうちに、わけもなく高木の胸は詰まった。すべてを忘れてしまった。生きるために記憶を淘汰したのではない。金と欲にまみれた時代の向こう側に、すべての記憶を置き去りにしてきた。
「貧乏はしていましたが、辛くはなかったんです。どうして楽しかったことまで忘れたんだろう」
さあ、と長寿の老人は縁先の椅子から立ち上がり、小さな星空を摑むような背伸びをした。
「楽しいことが多すぎるのではありませんか。今の若い人の悩みはたいがいそんなところです。贅沢ですな」
高木は、まだ恋人だった妻と昔「椿湯」に通ったことを思い出す。姫椿の花を手折り、濡れ髪に挿してあげたことを。取り戻したそのひとひらの記憶が、たぶん彼を救うことになる。現実は、厳しく続いていくのだろうが。
読み終えて、誰かを思う気持ちが希望の光を手繰り寄せるのかも知れないなあと、不思議テイストの世界に落ちたように考えてしまうような短編集だった。
『姫椿』の高木の妻でしょうか。それとも『永遠の緑』のみどりかな。
山茶花には別名が3つあるそうです。ひとつは、姫椿(ヒメツバキ)
そして、岩花火(イワハナビ)、藪山茶花(ヤブサザンカ)
凍える季節に咲く花に、希望を見出そうとするのが人、なのかも。


HN:
水月さえ
性別:
女性
自己紹介:
本を読むのが好き。昼寝が好き。ドライブが好き。陶器屋や雑貨屋巡りが好き。アジアン雑貨ならなお好き。ビールはカールスバーグの生がいちばん好き。そして、スペインを旅して以来、スペイン大好き。何をするにも、のんびりゆっくりが、好き。
ご意見などのメールはこちらに midukisae☆gmail.com
(☆を@に変えてください)
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