はりねずみが眠るとき
昼寝をしながら本を読み、ビールを空けて料理する日々
『すべて真夜中の恋人たち』
何度も、息を飲んだ。こんなに美しい文章は、読んだことがなかった。
川上未映子『すべて真夜中の恋人たち』(講談社文庫)
時に、描写の美しさに圧倒され、読み進めなくなり、中断を余儀なくされた。以下本文から。
人からみればなんでもない夕方と夜のさかいめを、けれどもふたりでゆっくりときりひらいていくように思えてしまう青い薄暮は、つかのま、三束さんとわたしをおなじ色にした。三束さんはいつもおなじように手をふって、いつもおなじように階段への角をまがって消えていった。わたしは何か言いたいのだけれど、もっと何かを伝えたいのだけれど、それが言葉になるまえに、それが音になって空気をふるわせるまえに、三束さんはいつだって角をまがって消えていくのだった。
ただ喫茶店で珈琲を飲み、話をするだけの冬子と三束(みつつか)さん。恋人同士ではないが、冬子は想いを募らせていく。またすぐに会えると知りつつも、別れの瞬間が淋しくてたまらない。そんな本当になんでもないシーンにさえ、ハッとさせられた。
読んでいて、胸が、ざわざわした。
自分が言葉にできない、できなかった感情や時やモノや、様々な事柄が、ああ、そうだよなぁと思えるような文章で表現されていく心地よさが、すっと胸に入ってくる瞬間、痛みを感じるのだ。それは、冬子の痛みでもあり、自分がこれまで経験してきた何かが持つ痛みでもあった。
人を好きになるって、そうだよ、こんなに苦しいものだったんだよ。うん、そうだ。と、久しぶりに思い出した。
先日訪ねた、二十歳になったばかりの末娘の部屋で見つけた文庫本です。
「川上未映子、読むんだ―?」と、わたし。
「けっこう読むよ。これなんか、読みやすいよ」と、娘。
娘よ、ありがとう。教えてくれて。本とのご縁も、また不思議。
川上未映子『すべて真夜中の恋人たち』(講談社文庫)
時に、描写の美しさに圧倒され、読み進めなくなり、中断を余儀なくされた。以下本文から。
人からみればなんでもない夕方と夜のさかいめを、けれどもふたりでゆっくりときりひらいていくように思えてしまう青い薄暮は、つかのま、三束さんとわたしをおなじ色にした。三束さんはいつもおなじように手をふって、いつもおなじように階段への角をまがって消えていった。わたしは何か言いたいのだけれど、もっと何かを伝えたいのだけれど、それが言葉になるまえに、それが音になって空気をふるわせるまえに、三束さんはいつだって角をまがって消えていくのだった。
ただ喫茶店で珈琲を飲み、話をするだけの冬子と三束(みつつか)さん。恋人同士ではないが、冬子は想いを募らせていく。またすぐに会えると知りつつも、別れの瞬間が淋しくてたまらない。そんな本当になんでもないシーンにさえ、ハッとさせられた。
読んでいて、胸が、ざわざわした。
自分が言葉にできない、できなかった感情や時やモノや、様々な事柄が、ああ、そうだよなぁと思えるような文章で表現されていく心地よさが、すっと胸に入ってくる瞬間、痛みを感じるのだ。それは、冬子の痛みでもあり、自分がこれまで経験してきた何かが持つ痛みでもあった。
人を好きになるって、そうだよ、こんなに苦しいものだったんだよ。うん、そうだ。と、久しぶりに思い出した。
先日訪ねた、二十歳になったばかりの末娘の部屋で見つけた文庫本です。
「川上未映子、読むんだ―?」と、わたし。
「けっこう読むよ。これなんか、読みやすいよ」と、娘。
娘よ、ありがとう。教えてくれて。本とのご縁も、また不思議。
HN:
水月さえ
性別:
女性
自己紹介:
本を読むのが好き。昼寝が好き。ドライブが好き。陶器屋や雑貨屋巡りが好き。アジアン雑貨ならなお好き。ビールはカールスバーグの生がいちばん好き。そして、スペインを旅して以来、スペイン大好き。何をするにも、のんびりゆっくりが、好き。
ご意見などのメールはこちらに midukisae☆gmail.com
(☆を@に変えてください)
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