はりねずみが眠るとき

昼寝をしながら本を読み、ビールを空けて料理する日々
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蜂に刺された場所

娘の部屋を久しぶりに掃除した。オーストラリアにワーキングホリデーに行っている、上の娘。
「わたしのかわいい子達をよろしくね」
と101匹のリラックマと1匹の愛犬をわたしに託し、10か月の旅に出た。
ベッドカバーも夏仕様に替え、部屋を開け放ってベランダに布団を干す。そのとき見つけた。小さな蜂の巣だ。

そういえば、と思い出した。彼女が2歳の時だからちょうど20年前になる。キャンプ場で蜂に刺され、大声で泣く彼女を抱き上げ、小さなからだについた何匹かの蜂を素手で払った。
「毒吸いを持っています」
隣のテントの知らない誰かが、吸引式の毒吸いを取り出し、娘の刺された場所に手際よくそのスポイトのような器具を当て、毒を吸いだすやり方を教えてくれた。何度も繰り返し毒を吸いだしたおかげで、娘のからだはどこも腫れることなく、一件落着と思えた。
娘が泣き疲れて眠った頃だ。わたしは自分の手が腫れていることに気づいた。
「毒が回ってからじゃ、吸ってもあまり意味はないでしょう」
隣のテントの親切な人は、残念そうに言った。
「問題は、その指輪だな」
夫も残念そうに言った。
刺されたのは、左手の薬指だった。
薬指はどんどんうっ血していき、紫色に変色し始める。しかたなく、救急病院まで夫に連れて行ってもらった。
「指輪を切るしかありませんね。いいですか?」
医者は、ためらいを見せながらも言った。
「はい」
あまりに簡単に答えたわたしに驚いたように、医者は今度は夫に聞いた。
「あの、切っていいですか」
「しょうがないですね」
医者も夫も、わたしがためらいなくイエスと言ったことに、苦笑していた。でも、薬指と指輪だよ。どっちが大切かなんて、迷うことじゃないじゃん。切断は1分とかからなかった。
「何かが終わった気がするな」
夫は少し責めるような目で言ったが、20年たってもわたし達はまだ終わっていない。

22歳になった娘が、オーストラリアで蜂に刺されることなく、楽しい毎日を送れますようにと、リラックマの頭をなでた。


作りかけのところ悪いけど、明日には引っ越してもらうよ

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HN:
水月さえ
性別:
女性
自己紹介:
本を読むのが好き。昼寝が好き。ドライブが好き。陶器屋や雑貨屋巡りが好き。アジアン雑貨ならなお好き。ビールはカールスバーグの生がいちばん好き。そして、スペインを旅して以来、スペイン大好き。何をするにも、のんびりゆっくりが、好き。
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