はりねずみが眠るとき

昼寝をしながら本を読み、ビールを空けて料理する日々
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信号はどこまでも青く

「雪子だ」「雪子だね」
めずらしく目的地までの信号すべてを、青で通過した。そんなときの伊坂幸太郎ファンクラブ(在籍2名)の合言葉は、雪子だ。
雪子とは、『陽気なギャングが地球を回す』(祥伝社)4人組銀行強盗のひとりで、信号をいつでも青で通過できるドライバーだ。
彼女は、強盗後、運転を任されていた。それはなにより彼女が体内時計を持っているからだ。次の信号まで何分何秒で、信号が変わるのは何秒ごとで、というのがインプットされ、すべての信号を青で通過するには、何キロでドライビングすればいいのか、雪子にはわかってる。すべての信号を青で通過し、雪子は自分の仕事を終えた。
そんな能力のないわたしでも、たまたま目的地まですべての信号を青で通過することがある。そんなときには、
「信号はどこまでも青く、前途はロマンに満ちている」
なんて、ギャングのひとり響野のように、無駄に言葉を並べてみたくなる。
 
雪子が体内時計を持つドライバーなら、響野は演説の達人、成瀬はどんな嘘をも見抜くことができ、久遠は誰の財布でも思うままにスルことができる。
「響野のこれって、特別な力なわけ?」
仲間は響野にきびしい。
「たしかにただの、うんちくおしゃべりおじさんとも言えるけど、ここまでほんとも嘘も織り交ぜて知識を披露できるのって才能だとは思うよ」
「まあね。人を惹きつける力はあるかもね。でもやっぱ、久遠が好きだな」
「人間より動物を愛する若者、二十歳の久遠青年ね」
「しかも、スリの天才!」
「やっぱ、特出したものを持つ人って素敵だよね」
「響野は特出してないけどね」
「こだわるねー。でも久遠は響野のこと好きだよ?」
「それは認める」
「響野って、喫茶店のマスターのくせにまずい珈琲しか淹れられないけどね」
「それも認める」
偶然(という言葉は嫌いだと成瀬は言うけれど)、銀行強盗の人質になった4人は、その強盗達の手際の悪さに「俺ならもっとうまくやれる」と意気投合。4人組の銀行ギャングを結成する。自分の特技を生かしつつ、仲間を信頼し、それでもそれぞれに事情を抱えた彼らのギャングぶりはじつに微笑ましい。
「ロマンはどこだ」
響野のこの言葉を合図に、彼らは銀行に乗り込んでいく。

青で信号を通過するたびに、わたしは彼らの爽快な物語を思い、つぶやく。
「信号はどこまでも青く、前途はロマンに満ちている」


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HN:
水月さえ
性別:
女性
自己紹介:
本を読むのが好き。昼寝が好き。ドライブが好き。陶器屋や雑貨屋巡りが好き。アジアン雑貨ならなお好き。ビールはカールスバーグの生がいちばん好き。そして、スペインを旅して以来、スペイン大好き。何をするにも、のんびりゆっくりが、好き。
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