はりねずみが眠るとき

昼寝をしながら本を読み、ビールを空けて料理する日々
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埋められない穴を、埋めるために

石井岳龍監督の映画『シャニダールの花』を観た。
女性の胸から肩にかかる辺りに芽を出し根を張り、花を咲かせる「シャニダールの花」を巡る人々を描いた、不思議な雰囲気を持つ映画だった。
イラクのシャニダール遺跡で、埋葬されたネアンデルタール人の骨と共に花の化石が発掘されたという実話が「シャニダール」の名の由来。
死者に花を手向けたという行動から、人をいつくしみ、人を悼む「心」が、人間に生まれた瞬間なのではないかという説があるそうだ。

女性の胸に寄生した花は、「シャニダール」という研究施設で新薬開発の目的で育てられていた。映画は、花を宿した女性のケアを担当するセラピスト響子が赴任してくるところから始まる。
響子自身、心に傷を抱え、それでもセラピストの道を歩んでいた。そんな響子に、シャニダールを育てる植物学者、大滝は魅かれていく。花を宿した女性達も、それぞれ個性的だ。親に見捨てられ心を閉ざしたミク。大滝にかなわぬ恋をするユリエ。自分のことよりも周囲の人々を気にかけてしまうハルカ。
印象に残ったのは、黒木華演じる響子の静かな言葉だった。
「心に空いた穴を埋めるために、花を咲かせるの」
花を宿した女性達の心に広がった穴は、しかし花で埋められたのだろうか。映画館を出ても、もやもやとしたものが胸に残っていた。

だが映画を観た帰り、夕暮れの田んぼに囲まれた農道を車で走っていて、ふとこれから広がっていくであろう夜の闇に思った。
「人の心に空いた穴は、どうやっても埋められないものなんだ」
それがストンと腑に落ち、しんとした心持ちになった。
「だからこそ、その穴を埋めようと、みんな必死に生きているんだ」
しんとした心持ちのまま、闇を抱え始めた田んぼを眺め、アクセルを踏んだ。
  
映画館入口には、まだ七夕飾りがありました。
シャニダールの花をイメージした、炭酸ドリンクを飲みながら。
小さな映画館で、ひとりのんびりと映画を観るのが好きです。

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HN:
水月さえ
性別:
女性
自己紹介:
本を読むのが好き。昼寝が好き。ドライブが好き。陶器屋や雑貨屋巡りが好き。アジアン雑貨ならなお好き。ビールはカールスバーグの生がいちばん好き。そして、スペインを旅して以来、スペイン大好き。何をするにも、のんびりゆっくりが、好き。
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