はりねずみが眠るとき

昼寝をしながら本を読み、ビールを空けて料理する日々
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陽気なギャング達の教え

特急あずさを待つ時間、甲府駅で乗った上りのエスカレーターでのこと。
降り際に後方で大きな音がしたのに驚き、振り返ると男性が倒れていた。
後ろの女性がひとり、エスカレーターから降ろそうとしているのが見え、あわてて一緒に男性を抱き起そうとしたが、ずしりと重く動かない。中肉中背に見えるその身体は、見た感じの倍はあるんじゃないかと思うような重さだった。眼はあいていたが、話しかけても答えない。意識がもうろうとしているのか身体じゅうの力が抜けているようだ。
エスカレーターに乗った後方の人達は、わたしともう一人の女性とその男性をまたいで歩いていく。そうしないと通れないのは判っていたが、見たくないものを見てしまったような気持ちになる。ふたりで何とかして男性をエスカレーターから降ろし、女性にその場を任せ、わたしは駅員を呼びに走った。すぐに駆けつけた駅員が、テキパキと車椅子を手配する。わたしともう一人の女性は、ホッとして会釈を交わし、それぞれの行く先へと向かった。

それだけの出来事だったが、伊坂幸太郎『陽気なギャングは三つ数えろ』(祥伝社)の、ワンシーンを連想するのにはじゅうぶんだった。以下本文から。

久遠が言う。
「たとえば、目の前でおばあちゃんが転んだとするでしょ。その時、急ぎの用があって、やむを得ず、通り過ぎちゃうことがあったとすると、だいたいの人は、こう思うんだ。『私はそんなに悪人じゃないんだ。今はたまたま急いでいるだけで仕方がなかったんだ』って」
「まあ、嘘じゃないだろうな」響野がうなずく。
「でも、それが他人の場合、誰かが転んだおばあちゃんを無視して、先に行っちゃったのを見るとね『あの人は冷たいんだ』と決めつける。ようするに、他人に関しては、一場面の行動を見ただけで、性格や人間性まで決めつけちゃうってことだよ。裏の事情までは考えない」
「確かにそうね。相手の事情をもっと想像してあげるべきね」
雪子もうなずく。

わたしは、あずさの待ち時間まで、間があった。もしかしたらとっさの行動にも、そんな計算が働いていたのかも知れないと、一人になった車中、ぼんやりと考えたのだった。どうか元気になっていますように。

最近の甲府駅、自販機事情。
何故かいつも準備中であきらめていたホットのほうじ茶が、昨日は
買えました。こういう小さなことに感じる幸せ、大切にしたいです。

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HN:
水月さえ
性別:
女性
自己紹介:
本を読むのが好き。昼寝が好き。ドライブが好き。陶器屋や雑貨屋巡りが好き。アジアン雑貨ならなお好き。ビールはカールスバーグの生がいちばん好き。そして、スペインを旅して以来、スペイン大好き。何をするにも、のんびりゆっくりが、好き。
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