はりねずみが眠るとき

昼寝をしながら本を読み、ビールを空けて料理する日々
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左手くんと右手くんと肩書き

「久しぶりで、緊張するね」「ほんと、ずいぶん久しぶり」
「すっかりよくなったもんね」「体操だってできるしね」
「体操始めたはいいけど、サボりがちなのが、気になるけど」と、左手くん。
「うん。僕らは、やる気満々なんだけどねぇ」と、右手くん。
久々に frozen shoulder (五十肩)を患った右手くんと、そのサポート役だった左手くんの登場だ。
患ったのは1年前。その痛みの記憶も、遠くなってきた。自分の痛みでさえ忘れてしまうのだから、人の痛みを理解するのは、難しいはずである。

「でも、僕、もう frozen shoulder じゃないよ。元 frozen shoulder って、言ってほしいな」
「そうだよね。ん? でも僕は、治ったには治ったけど、骨折した手の甲に、まだビスが入ってるから、現在進行形でもあるなぁ」
「じゃあ肩書きをつけるとしたら、左手(元小指中手骨部分骨折、現在チタンのビス2本入り)って、感じかな?」
「五十肩だけに『肩』書き?」「あ、この駄洒落、判ってくれた?」
「でもさ、辞書によると『肩書き』って、職業をかくみたいだよ」
「そうなの? 職業かぁ。僕ら手には、手に余るほど多いなぁ」
「はいはい。また、駄洒落ね。ちょっと意味がずれてるような気もするけど。僕はねぇ、自分の仕事は、けっこうはっきりしてるんだ」
「へぇ、 何?」「君のサポートだよ」「そっか。なんだか、嬉しいなぁ」
「だからもし犯罪を犯して新聞に載るとしたら、左手(右手さんサポート業)かな」「いや、犯罪に手を染める必要はないけどさ、今朝未明、左手(右手さんサポート業)の身柄を捕獲、とか?」
「そうそう。あ、でも職業の他に、前科も肩書きって言うらしいよ」
「ああ、前科何犯ってやつ」「何か声のトーンが落ちたけど、どうかした?」
「だってさ、子ども達が小さかった頃、いたずらした手をペチッてたたいたの、僕だもん。前科百犯くらいかも」
「そんなことないよ。君のペチッはペチッ以上の音には、ならなかったし。それに、頭をなでたのも背中をとんとんしたのも、君の方が圧倒的に多いしね」
「懐かしいなぁ。なでなで、とんとん」
「うん。懐かしい。あれは、僕ら手にとっては、素敵な仕事だったねぇ」
「でもあの頃、僕らたいへんだったよね」「抱っこし過ぎて、ふたりして腱鞘炎になってさ」「なでなでするのさえ、ヘロヘロだったよね」「今朝未明、右手(ヘロヘロなでなで)の身柄を確保」「もう! しみじみしてたのにぃ」

しみじみする左手くんと右手くんの会話を聞きながら、左手くんに倣い、わたしが新聞に載るとしたら、自分から果てしなく遠いと思われる「会社役員」って肩書きがつくんだろうなぁと考えた。
そう考えると、新聞で読む肩書きは、まるっきり別人のイメージを創り上げることもあるのだと判る。他愛ない、左手くんと右手くんの駄洒落攻撃だったが、同じ肩書きでも、ひとりひとり違う。そのことを覚えておこうと思った。

カナダにいる娘に送る手袋を、買いました。
「シーです。よろしく」「プーだよ。よろしく!」

「口のなかは、ピンクだよ」「あ、プー、はずかしいったら!」

「なになに、新入りくん?」「あー、黒ヒツジくん達、可愛い!」
「シーです。よろしく」「プーだよ。よろしく!」
「ネリーよ、よろしく」「ハリーだよーん。仲良くやろーぜ!」

「そっかぁ。すぐにカナダに行っちゃうんだね」
「向こうは寒いらしいから、手を温める仕事も、やりがいあるよねぇ」
「はい! がんばります」「またいつか、会えるよね」

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HN:
水月さえ
性別:
女性
自己紹介:
本を読むのが好き。昼寝が好き。ドライブが好き。陶器屋や雑貨屋巡りが好き。アジアン雑貨ならなお好き。ビールはカールスバーグの生がいちばん好き。そして、スペインを旅して以来、スペイン大好き。何をするにも、のんびりゆっくりが、好き。
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