はりねずみが眠るとき

昼寝をしながら本を読み、ビールを空けて料理する日々
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『ふる』

西加奈子の小説『ふる』(河出文庫)を、読んだ。ピンクと白の淡い色合いの表紙に魅かれ、買った文庫だ。
池井戸花しす(いけいどかしす)は、28歳。仕事は、アダルトビデオのモザイク掛け。趣味は、ICレコーダーでの隠し録り。寝る前に、その日一日の録音を聴くのを楽しみにしている。同居人は、年上の友人さなえちゃんと猫2匹。そんな花しすの現在と過去を描いた小説だ。過去には、いつも「新田人生」という名の男が登場し、それは、タクシー運転手であったり、小学児童であったり、倫理のおじいちゃん教師であったり、合コンで出会った綺麗な顔の男子であったりする。そして、そんな過去にはいつも『ふる』のだ。言葉が空から降ってくるように、花しすの前に現れるのだ。例えば、こんなふうに。

 わ       !
     っ て
   ら

花しすは、誰の感情をも害さないことに全力を注ぎ、皆に優しく軽んじられる存在でありたいと望んで生きてきた。だが。以下本文から。

池ちゃんは優しいから。
でも花しすは、自分のことを優しいと思ったことなど、一度もなかった。自分は誰かを傷つけるのが怖いだけだ。それを優しさだと、ある人は言うかもしれないが、傷つけないことと、優しいことは違う。
花しすは、人が傷ついたとき、顔が歪むのを見るのや、流れている時間が止まることが嫌なのだった。そしてそのことに関与しているのが自分であるということが、一番怖いのだった。花しすはもっと言えば、能動的に誰かと関わることが、怖かった。いつでも受け身でいたかった。自分が選ぶのではなく、選ばれる側でい続けることで、関係性においての責任を負うことを、避けた。
卑怯なことだと、自分でも思う。そしてそうしている自分を誰も責めず、あまつさえ「優しい」などと言われるのだ。

花しすは、今と過去と未来を見つめることで変わっていこうとする。
「そのままの花しすで、じゅうぶん優しいのに」
どちらかと言えばわたしは、変わる前の花しすのように生きられたら、と思った。誰も傷つけずに生きていくことができるのなら。無論誰だって、誰かのようになど生きられはずもないのだが。

表紙の猫たちの絵も、西加奈子によるものです。帯には顔写真も。
猫は、さなえちゃんが飼っていたベンツとジャグジーかな。

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HN:
水月さえ
性別:
女性
自己紹介:
本を読むのが好き。昼寝が好き。ドライブが好き。陶器屋や雑貨屋巡りが好き。アジアン雑貨ならなお好き。ビールはカールスバーグの生がいちばん好き。そして、スペインを旅して以来、スペイン大好き。何をするにも、のんびりゆっくりが、好き。
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