はりねずみが眠るとき

昼寝をしながら本を読み、ビールを空けて料理する日々
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小説「カフェ・ド・C」 9.空想の産物

 妻のお腹にいる赤ん坊は女の子だそうだ。予定日を三日過ぎたが、娘はまだ生まれてこない。
「最初の子は、のんびりしているものよ」
 ムッシュといらしたマダムが、カウンターでアイスコーヒーを召し上がっている。妹のところに去年二人目が生まれたので、彼女の孫は三人目になるが、女の子は初めてだ。それをとても喜んでいる。
「ミサトさんによく似た美人さんになるだろうねぇ」
 ムッシュも顔をほころばせた。
 妻は昼寝をしている。真夏の暑さとお腹の重さに疲れ、夜よく眠れないらしい。仕事をしていた頃は、ベッドに入った途端寝息を立てていた彼女が、だ。
「待ち遠しいですね、新人パパさん」
 妻への陣中見舞いにと、メロンを持って来てくれたユウちゃんとジュンも話に加わる。
「生まれる前から、あまりに美人でモテすぎたら困るとか心配してるんじゃないですか。マスター」
 バイトにもすっかり慣れたジュンが軽口をたたく。
「そんなわけないだろ」
 ジュンをこつんと小突いて、赤ん坊が生まれるってすごいな、とあらためて思う。生まれる前からこんなふうに、みんなを笑顔にしてくれている。
 
 そのとき店のドアが開いた。
「いらっしゃいませ」 振り向きながら声をかけて、僕は息をのんだ。
「こんにちは」 笑顔をこぼし立っていたのは、ピンクのワンピースを着た五歳くらいの女の子だ。それが妻のミサトそっくりなのだ。ありえないけれど、一瞬、娘かと錯覚した。今の今まで生まれてきたらこんな子に育つのかなと空想をふくらませていた映像がそのまま現れたのだ。僕だけじゃなく、ムッシュとマダムも、ユウちゃんとジュンも、言葉を失っていた。
「ちわー」 ほどなく店に入ってきたのは、妻の弟だった。
 二十歳の時にできちゃった結婚し、今は北海道の奥さんの実家で農業をやっている。女の子は姪だった。生まれたときに顔を見て以来だから、会っても分からないはずだ。
「姉ちゃん、そろそろだって聞いたんで、これ」
 彼は大きなメロンを差し出し、ユウちゃんとジュンは肩をすくめる。そこへちょうどやって来た妻が、弟を見るなり言った。
「あんたの顔見たら、急にお腹痛くなってきちゃった」
「ひでえな、それ。そりゃ昔は心配ばっかかけてたけどさ」
 彼のおかげかどうかはわからないが、その夜、妻はぶじ娘を出産した。

珈琲の焙煎も趣味の一つという多趣味で器用なご近所さんから
アイスコーヒー用の豆をいただきました

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HN:
水月さえ
性別:
女性
自己紹介:
本を読むのが好き。昼寝が好き。ドライブが好き。陶器屋や雑貨屋巡りが好き。アジアン雑貨ならなお好き。ビールはカールスバーグの生がいちばん好き。そして、スペインを旅して以来、スペイン大好き。何をするにも、のんびりゆっくりが、好き。
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