はりねずみが眠るとき

昼寝をしながら本を読み、ビールを空けて料理する日々
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小説「カフェ・ド・C」 14. 狼少年

カフェ・ド・Cで初めて結婚式をすることになった。結婚式と言っても15人ほどのこじんまりとしたもので簡単なお祝いパーティだ。主役はムッシュとマダム。母は彼と共に暮らすことを決めた。
「ケータリングで美味しいパーティ料理を配達してくれるところがあるんだ」
ムッシュは以前イベント関係の仕事をしていたらしく、料理の手配をした。
「シエナのレイさんが、腕によりをかけてウエディングケーキを作ってくれるのよ」マダムもうれしそうだ。
招待客は二人の友人達が五、六人ずつ。季節もいいし晴れたら窓を開け放ち気持ちのいい風を入れよう。母の幸せそうな顔に僕もついウキウキしてしまう。
 
そんなとき、再婚し山梨の田舎に移り住んだ父が、新米を送ってきた。
「初めて田植えをし、収穫した米です。届いたらその日のうちに食べてみてください」メモ用紙に丁寧な字でかいてある。
「父も幸せに暮らしてるみたいだ」
炊き立ての甘い新米を口に運び妻に言うと、彼女は不思議なものを見たような顔をした。それで僕は「幸せ」と口にすることを恐いと思わなくなっている自分に気づいた。
「そろそろ封印を解いてもいいかな」
カフェ・ド・Cの本当の名の由来をお祝いの言葉にしようと、僕は決めた。

 
式当日は秋晴れだった。マダムは白いタイトなワンピースに友人達がプレゼントしてくれたというベールのついた髪飾りをつけている。ウクレレを弾く人あり、短歌を詠む人あり、手品を披露する人あり、歌声や笑い声が絶えず明るくにぎやかなお祝いの会になった。
ケーキカットの後、僕は心をこめて珈琲を淹れ、ムッシュとマダムの席にいちばんに運んだ。
「母さん、おめでとう。初めて言うけど、カフェ・ド・CのCはフランス語でコントン。幸せって意味なんだ。ここで出会ったお二人の幸せを祈ってます」
マダムはきょとんとした顔をしたかと思ったら、突然笑い出した。
「ありがとう。でもそんな取ってつけたような嘘までつかなくても、わたし達は充分幸せよ」
ムッシュもマダムの隣でうなずいた。
「苗字、茅野さんのCだって聞いてたけど、まあ、その気持ちがうれしいよ」
 僕は返す言葉もなく、カウンターに戻り珈琲を淹れる作業に没頭した。集を抱いた妻が耳元でささやいた。
「狼少年になった気分はどう?」

秋の空にはコスモスがよく似合う ムッシュ&マダム、おめでとう!

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HN:
水月さえ
性別:
女性
自己紹介:
本を読むのが好き。昼寝が好き。ドライブが好き。陶器屋や雑貨屋巡りが好き。アジアン雑貨ならなお好き。ビールはカールスバーグの生がいちばん好き。そして、スペインを旅して以来、スペイン大好き。何をするにも、のんびりゆっくりが、好き。
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