はりねずみが眠るとき

昼寝をしながら本を読み、ビールを空けて料理する日々
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キーワードはセドリック

この春初めての鶯の声を聴いた日、伊坂幸太郎ファンクラブ(在籍2名)の仲間の部屋に『砂漠』(新潮社)を借りに行った。が、もう本棚にはないと言われた。荷造りした後だったのだ。
娘と同級の彼女も、大学進学のため県外に出るとは聞いていた。

実のところ『砂漠』はどうでもよかったわたしは、思い切って彼女に言った。
「『砂漠』程とは言わないけど、大学生活を楽しんでくれ」
「楽しむつもり満々だよ。で、何で突然『砂漠』読みたくなったの?」
「いや、車の名前、何だったかなって確かめたくて」
わたしはセドリックだと知りつつ、聞いた。
「セドリックだよ。白の」彼女は即答した。
「白か」「うん。白」「セドリックか」「うん。セドリック」
何がセドリックなのかは、『砂漠』を読んでもらわないと共感できないものがあるので、説明はしない。ただ、人の心とか力って実にすごいよなぁと思えるキーワードが『砂漠』ではセドリックなのだ。
大学で知り合った5人の男女を描く、伊坂唯一の青春小説。
彼女の部屋を出て、ひとりつぶやいた。
「大学4年間でとは言わないが、いつか何処かでセドリックを見つけてくれ」
つぶやいてから、ふと思った。わたしのこれからにも、セドリックは待っているかもしれない。見出す気持ちさえあれば、と。

鶯の声に目覚めたのか、庭の雪柳が花開き始めました。
いや、雪柳の白に、鶯が目覚めたのかもしれません。

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