はりねずみが眠るとき

昼寝をしながら本を読み、ビールを空けて料理する日々
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『ふたつめの月』

近藤史恵の連作短編集『ふたつめの月』(文春文庫)を、読んだ。
老人が探偵役をするコージーミステリー『賢者はベンチで思索する』の続編だ。主人公、久里子は少し成長し23歳になっていたが、就職したばかりの会社を突然クビになり、途方に暮れているシーンからのスタートである。
1話目。久しぶりにあった会社の友人は、解雇されて辞めたはずの久里子が自ら辞めたような口ぶりで話す。「何かがおかしい」久里子は赤坂老人に、もやもやした気持ちを聞いてもらうのだが。
2話目。料理修業でイタリア留学中の弓田が、一時帰国した。気持ちは伝え合っていなくても恋人だと思っていた久里子に、弓田は年下の幼馴染み、明日香の相談役を頼むのだった。
表題作の3話目。赤坂老人が、久里子の目の前で自動車事故に遭う。入院した赤坂は、久里子に頼みごとをした。街灯をひとつ壊してほしいと。本当にやりたい仕事。大好きな弓田の気持ち。謎だらけの赤坂の真意。刑事が追う真相。久里子の頭のなかは、未完成のパーツがばらばらに散らばっているようだった。以下本文から。

「自分がどうしたいかわからなかったら、どうすればいいんですか?」
自然に抗議するような口調になってしまった。
「そうだね。簡単に決められる人の方が世の中には少ないだろう。でもそれなら、自分の心が決まるまで、待てばいい」
それならば、今と一緒だ。久里子の表情に気づいて、赤坂は笑った。
「不幸になる人の多くは、相手がなにかをしてくれるのを待っているんだ。相手がなにかしてくれれば、今の状況も変わるかもしれないと思って待っている。でも、そうではなくて、自分の心が決まるのを待ちなさい。そのふたつは、大きく違うよ」
赤坂は飲み終えたカップを、ベッドの脇に置いた。久里子も黙って赤坂の話を聞いていた。赤坂は弓田のことだけではなく、自分のことについて、話しているような気がした。
「もし間違っても、しくじっても、自分の選んだ方向なら、それなりに歩くことができるものだよ。自分で選ばずに、嫌々歩く道がいちばんつらいはずだ」

待つことがいけないのではない。自分の人生を誰かに委ね、何もせず待ってばかりいて、挙句不幸だと嘆くのは、もう他の誰のせいでもなく自分自身が選んだ道、選んだ不幸だ、ということなのだろう。
赤坂じいさんのこういう、ちょっと厳しい、けれどフェアだと思えるような考え方、好きだなあ。

『賢者』は、飼い犬たちの事件から始まりますが、
『月』では、久里子の愛犬アンとトモは、愛すべき脇役に徹します。
続き、出ないかなあ。かいてほしいなあ。読みたいなあ。
『月』の解説は表紙のイラストを描いた、松尾たいこです。

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HN:
水月さえ
性別:
女性
自己紹介:
本を読むのが好き。昼寝が好き。ドライブが好き。陶器屋や雑貨屋巡りが好き。アジアン雑貨ならなお好き。ビールはカールスバーグの生がいちばん好き。そして、スペインを旅して以来、スペイン大好き。何をするにも、のんびりゆっくりが、好き。
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