はりねずみが眠るとき
昼寝をしながら本を読み、ビールを空けて料理する日々
落とし物は、いったい何?
とあるJRの駅のホームで、電車を待っていたときのこと。
アナウンスが流れた。
「改札付近に落ちていた、落とし物を預かっています。お心あたりのある方は、改札口までお越しください」
えっ? 落とし物? 途端に不安になり、バッグのなかを探る。財布ある。スイカある。ケータイある。ハンカチもある。
ふと周りを見回すと、老若男女みな一様に不安げな面持ちでバッグを探ったり、ポケットに手を入れたりしている。通り過ぎた年上のご婦人二人は、顔を見合わせて話していた。
「落としたものはないと思うけど、不安になるわねえ」
「そもそも何が落とし物なのか判らないんじゃ、心あたりも何もねえ」
まさにその通り。何か判らないから、誰もが不安になってしまったのだ。
電車に乗ってからも、想像を膨らませた。落とし物、いったい何だったんだろう。判らないからこそ想像は膨らんでいく。傘や財布やケータイではない、何か。構内放送で言えないようなもの? それとも、例えば「財布」などと特定しない方が安全と考えたのか。
一輪の真っ赤な薔薇。生まれたての真っ白い子猫。オーブンから出したばかりのサックサクのクロワッサン。貝のなかで眠る真珠。木から転げた椰子の実。片目だけ入っただるま。チョークの粉だらけの黒板消し。ネバーエンディングストーリーに出てきた空飛ぶ竜ファルコン。
考えるほどに改札口はにぎやかになっていく。そんな在らぬ想像を膨らませているうちに車中珍しく本を開くことなく時間はあっという間に過ぎていった。
駅のホームに置かれていた、鉢植えの花です。
花達は何色であれ、放送に動揺することはありませんでした。
アナウンスが流れた。
「改札付近に落ちていた、落とし物を預かっています。お心あたりのある方は、改札口までお越しください」
えっ? 落とし物? 途端に不安になり、バッグのなかを探る。財布ある。スイカある。ケータイある。ハンカチもある。
ふと周りを見回すと、老若男女みな一様に不安げな面持ちでバッグを探ったり、ポケットに手を入れたりしている。通り過ぎた年上のご婦人二人は、顔を見合わせて話していた。
「落としたものはないと思うけど、不安になるわねえ」
「そもそも何が落とし物なのか判らないんじゃ、心あたりも何もねえ」
まさにその通り。何か判らないから、誰もが不安になってしまったのだ。
電車に乗ってからも、想像を膨らませた。落とし物、いったい何だったんだろう。判らないからこそ想像は膨らんでいく。傘や財布やケータイではない、何か。構内放送で言えないようなもの? それとも、例えば「財布」などと特定しない方が安全と考えたのか。
一輪の真っ赤な薔薇。生まれたての真っ白い子猫。オーブンから出したばかりのサックサクのクロワッサン。貝のなかで眠る真珠。木から転げた椰子の実。片目だけ入っただるま。チョークの粉だらけの黒板消し。ネバーエンディングストーリーに出てきた空飛ぶ竜ファルコン。
考えるほどに改札口はにぎやかになっていく。そんな在らぬ想像を膨らませているうちに車中珍しく本を開くことなく時間はあっという間に過ぎていった。
駅のホームに置かれていた、鉢植えの花です。
花達は何色であれ、放送に動揺することはありませんでした。
HN:
水月さえ
性別:
女性
自己紹介:
本を読むのが好き。昼寝が好き。ドライブが好き。陶器屋や雑貨屋巡りが好き。アジアン雑貨ならなお好き。ビールはカールスバーグの生がいちばん好き。そして、スペインを旅して以来、スペイン大好き。何をするにも、のんびりゆっくりが、好き。
ご意見などのメールはこちらに midukisae☆gmail.com
(☆を@に変えてください)
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