はりねずみが眠るとき

昼寝をしながら本を読み、ビールを空けて料理する日々
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『あつあつを召し上がれ』

「誰にだって 忘れられない味がある。」
小川糸の短編集『あつあつを召し上がれ』(新潮文庫)の帯に掲げられたコピーだ。その下には「身も心も温まる、食卓をめぐる7つの物語」とある。
『食堂かたつむり』の作者による、食が主役の短編集となれば、手にとらない手はない。もともと、小説に登場する食卓でのシーンを、こよなく愛している。手にとった途端、ランランランとスキップしたくなるほどだ。

目次を開くと、それぞれのタイトルに、食べ物が入っていた。かき氷、ぶたばら飯、松茸、おみそ汁、ハートコロリット(?)ポルク(?)きりたんぽ。
1話から丁寧に読み進め、2話目の『親父のぶたばら飯』を読み、ごくりと、つばを飲み込んだ。食卓での描写の巧妙さは『食堂かたつむり』で判っていたにもかかわらず、驚かされる。例えば。

ふかひれのスープは、優しく優しく、まるで野原に降り積もる雪のように、私の胃袋を満たしていった。地面に舞い降りた瞬間すーっと姿を消してしまうかのように、胃から身体の隅々へ行き渡っていく。儚い夢を見ているようだった。美味しい物を食べている時が、一番幸せなのだ。嫌なこととか、苦しいこととか、その時だけは全部忘れることができる。

「中華街で一番汚い店なんだけど」と言う恋人に連れて行ってもらった主人公、珠美の感想だ。最初は焼売で、その描写も秀逸。その後もちろん、ぶたばら飯が待っている。そして、ふたりのドラマも展開していくのだ。

食に対するこだわりが人物を表している部分にも、とても魅かれた。
「熱い食べ物は、熱いうちに。私達が食事を共にする時の鉄則である」
「この人は、絶対にカラザを取り除く。少しでも白身と黄身が混ざっていないと、不機嫌になるのだ」
「お父さん、ほんとにうるさかったの。料理全般に口出ししたけど、こと、きりたんぽに関してはね。ご飯粒が残り過ぎていても文句を言うし、かと言ってつぶしすぎると餅じゃあるまいしって不機嫌になるし」などなど。

この短編の多くは、人生のターニングポイントでの食卓を描いていて「食を描くことって人を描くことなんだ」と、すとんと胸に落ちた。温かな涙がところどころプラスされ、塩味、ちょっと効いてるかも。

庭のラベンダーが、咲きそろいました。

少し切って一輪挿しに。その後キッチンで、長さを切りそろえ落とした茎に、
うっかりお湯を、かけてしまいました。
キッチンじゅうが、ラベンダーの強い香りに包まれ、びっくり ♪
キッチンでの小さなドラマは、日々繰り広げられているんだよなぁ。

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HN:
水月さえ
性別:
女性
自己紹介:
本を読むのが好き。昼寝が好き。ドライブが好き。陶器屋や雑貨屋巡りが好き。アジアン雑貨ならなお好き。ビールはカールスバーグの生がいちばん好き。そして、スペインを旅して以来、スペイン大好き。何をするにも、のんびりゆっくりが、好き。
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