はりねずみが眠るとき

昼寝をしながら本を読み、ビールを空けて料理する日々
[1375]  [1374]  [1370]  [1373]  [1372]  [1371]  [1369]  [1368]  [1366]  [1367]  [1363

ヤマネが消えた穴

レースのような透かし模様のベストを、編み始めた。
ラズベリーの明るく濃い色で、手にとるたびに楽しくなる。上手にできたら、ある女性に着ていただこうと思っている。上手に、というのは、家で着ていて、宅配便が届いたときに恥ずかしくなく玄関を開けられるくらい、ということだが。いやいや。上手にどころか、できあがるのか? というところに問題はあるのかも知れず、すべての段ごとに目を減らし増やしていく模様編みは、わたしにとっては難解で、編み始め、弱音ばかり吐いていた。
「だめだ。こんなに不器用だったとは」
「あー、もう。わたしって頭、悪い!」
その弱音を聞く家族も、今や夫のみである。
「まあ、のんびりやりなよ」

夫に弱音を吐いていると、口から転がり出るモノが、ヤマネであるような気分になる。ヤマネ。人目につく場所にはほとんど姿を見せず、凍ったように冬眠することからコオリネズミとも呼ばれる10㎝に満たない小動物。
ヤマネは口から転がり出たかと思ったら、すぐに小さな穴に消えていく。透かし模様だけに、穴はいくらでもあるのだ。そうやってヤマネが消えていくと、吐いた弱音も共に消え、また編み始められる。
「穴があるって、いいかも」
毛糸と毛糸の間に空いた穴をじっと見つめていると、ヤマネが消えていった向こう側へ吸い込まれそうな気がしてくる。その穴のこちら側には、それを恐ろしいと感じることもなく、吸い込まれていくのもまたよしと、思っている自分がいた。

右前身頃が、もうすぐ編み上がります。
ラズベリーの色、写真ではうまく出なかったけど、気に入っています。

木がのびのびと枝を伸ばしているような模様を、繰り返していきます。
春の終わりに間に、合うかなあ。

拍手

10 2024/11 12
S M T W T F S
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
HN:
水月さえ
性別:
女性
自己紹介:
本を読むのが好き。昼寝が好き。ドライブが好き。陶器屋や雑貨屋巡りが好き。アジアン雑貨ならなお好き。ビールはカールスバーグの生がいちばん好き。そして、スペインを旅して以来、スペイン大好き。何をするにも、のんびりゆっくりが、好き。
ご意見などのメールはこちらに midukisae☆gmail.com
(☆を@に変えてください)
Template by repe