はりねずみが眠るとき

昼寝をしながら本を読み、ビールを空けて料理する日々
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『平成大家族』

中島京子『平成大家族』(集英社文庫)を、読んだ。
タイトルから判る通り、大人数の家族の物語である。龍太郎(72歳)は、穏やかな生活が何より好ましいと思っていた。問題がないとは言えないが、それでも穏やかに暮らしていたのだ。妻、春子と、ひきこもり歴十年の長男(30歳)と、認知症が進む義母(92歳)と。なのに様々な問題が、まるで鴨が葱じゃなく雷雲でも背負ってやってきたみたいに訪れた。破産した長女夫婦が、中学生の孫を連れて戻ってきただけではなく、次女は離婚し、お腹に赤ん坊のいる身体で戻ってきた。季節を経て順々に膨らんでいく家族の形とはまるで違う、いきなり倍以上の人数になった「予期せぬ大家族」の物語なのだ。

面白かった。ひきこもりの息子、親の介護、中学生のいじめ、会社の倒産、不妊治療や離婚、深刻な問題に深く切り込んでいるのに、読後感がいい。何故なら、問題山積みの家族だが、一人ひとりの目線で語られた人物は、それぞれ「いい人」なのである。人を思いやり、正しく生きようとし、自分に正直にいようとする。だがそれが、家族からしたら「いい人」で済まされない。そういう問題ではない。「いい人」なら十年間ひきこもっていていいのかという問題になってしまうのだ。以下本文、春子が、娘が作った味噌汁の嫌いなはずの椎茸を、夫が食べたところを目にしたシーンから。

自分は四十年間、好きな椎茸も我慢して、夫の好物を、作り続けてきた。椎茸は、夫の、不在の、ときにしか、料理しなかった。食べられるなんて、知らなかった。四十年も私は、騙されていたのよ!
ここよ、ここがキモなのよ、と、春子は銀座線の優先席で二つの拳をぎゅっと握り締めた。もちろん、些細なことである。つまらないことである。しかし、日常は、些細なことでできている。今まで別々暮らしていた人間がいっしょにいるとなると、いろんなところで調子が狂うのだ。

判る、判るよ。ずいぶんと年上である春子の、肩を抱いてあげたい気持ちに駆られた。生きていく上で大切なことは、実際、実に些細なことなのだ。つまらないことに、人は右往左往されるのが常なのだ。

「核家族小説が増える中で生まれた、現代の家族小説」であると、解説、
北上次郎はかいています。日本茶が似合いそうでいて、そうでもないのかな。

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HN:
水月さえ
性別:
女性
自己紹介:
本を読むのが好き。昼寝が好き。ドライブが好き。陶器屋や雑貨屋巡りが好き。アジアン雑貨ならなお好き。ビールはカールスバーグの生がいちばん好き。そして、スペインを旅して以来、スペイン大好き。何をするにも、のんびりゆっくりが、好き。
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